嘘つきピエロ

□始まりとピエロ
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一夜明けて次の日。
いつも通り朝食を食べて、ゆうちゃんと登校していた。
 
今日もゆうちゃんの頭は寝癖ではねてる。
別にすごく跳ねてるってわけじゃないんだけど、無造作ヘアーだから自然体なだけ。

天然パーマは兄妹そろってだから、寝癖かどうかも気付かれないけど。
 

「ゆうちゃん、今日も寝癖直さないんですか?」
 
「うーん…、だって直しても同じだよ?天パだし」
 
「ふふ、そうですね。ゆうちゃんはそっちのほうが似合います」
 
「あはは」
 

手をつないで、ゆらゆら振って。
私が作ったおそろいのうさぎのキーホルダーをつけて。
いつもみたいに、おはなししながら笑顔になって。
 
そんな日が、いつまでも続くとは限らないけれど、少しでも長く続いてくれれば嬉しいと私は願う。
 

「ゆうちゃん今度お洋服買いにいきません?」
 
「いいね、俺が選んであげるよ」
 
「本当ですか?ゆうちゃんはセンスがいいのです」
 
「えへへ、そうかなあ………っわ!」
 

そうですよ、と言おうと思った瞬間。
 

「…った、」


右角から1人の少年と衝突。
もちろん、相手の男の子は尻もちをついてしまって。
 
よくみたら立海の制服。そして見覚えのある青い髪と、テニスバッグ。
 
なんだ、彼じゃないですか。
 
 
「ゆきむら、くん?」
 
「あ、わ!ごめんなさい、大丈夫ですか!?」
 

私の手を引っ張ったまま、尻もちをついたそう、幸村くんのもとへ走るゆうちゃん。



うったところをさすりながら立ち上がる彼は、やはり幸村くんだった。
 


「いえ、大丈夫です……ってあれ?ひなちゃん?」
 
「おはようございます、幸村くん。お怪我はないですか?」
 
「おはよう、大丈夫だよ」
 
「ならよかったです」
 

2人で会話をしていると、え?と言った表情で私と幸村くんの顔を見るゆうちゃん。

 
「ひなちゃんのおともだち?」
 
「はい、昨日おはなししたお友達です」
 
「そうなんだあ!…あ、俺天津雄二です。ひなちゃんの弟です」
 

勝手に手を取って握手をするゆうちゃん。
こんなところがぽわぽわしてて天然なんだろうな。
 
でも可愛いからいいのです。
 
 
「はじめまして、幸村精市です。雄二くん?」

「雄二でいいですよー!」
 
「じゃあ雄二」
 
「はいっ」
 

フレンドリーなゆうちゃんはすぐこういった友達になれるからうらやましい。
やっぱり男の子だから気が会うのでしょうか?
 
ならば幸村くんの妹さんともお友達に、…なれるわけないか。
 

「精市さんも途中までいきましょうよっ」
 
「いいの?」
 
「もちろんです、幸村くん」
 
「ふふ、ありがとう」
 

左にゆうちゃん、右に幸村くん。
手をつないで、まるで昨日の帰り道のようです。
 
2人のあったかい手は、朝から幸せな気持ちになれました。
 

「あ、じゃあ俺こっちなので。あとでねひなちゃん、さようなら精市さん」
 
「またなのです」

「ばいばい」
  

手を振った後、幸村くんと2人で登校です。
幸村くんの手は、大きくてとてもあったかいとわかりました。
 
ゆうちゃんやひろくんや仁王くんたちに手をつないでもらうときとは違う、なんだか不思議な気持ちになるんです。
 

「雄二、お兄さんかと思ったよ」
 
「よく言われます」
 
「仲良いんだね」


ゆうちゃんと私をセットでみれば、必ず言われる、「仲良いんだね」。

 
「いつも、…一緒ですから」
 

ゆうちゃんが生まれたときからいつも一緒。

カルガモの親子みたいに、わたしがゆうちゃんをつれまわしてたっけ。
でも、いつしかゆうちゃんは私より大きくなって、今度は私がゆうちゃんに連れて歩かれるようになった。
 
15年間生きてきて、ゆうちゃんがいない日はなかった気がする。


「なんだかうらやましいなあ、雄二が」
 
「………え?」



――たいへん、遅刻しちゃう。
 

幸村くんの顔を見た瞬間、胸がきゅうってなった気がする。
笑って手をとってくれるこの時間が、いつまでも続けばいいな、なんて。
 












誰もしらない、幸せな時。

 
(キーンコーン……)
(わ、大変!ひなちゃんだっこしてあげるよ)
(っわ!)
(………軽、)
 
  

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