嘘つきピエロ

□勧誘とピエロ
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放課後、ひろくんから用事があるといわれて教室で待っていた。
もちろん何の用事かなんて教えてもらえるはずもなく、…だって聞こうとしないんだもの。
 
はい、はい、と答え続けていたらいつの間にか放課後に。
 

「ひなさん、ついてきてください」
 

椅子からおりて、ひろくんの後ろをちょこんとついて歩く。
………足が長くて歩くのが早いのは、実にうらやましいこと。


そしてふと思ったが、今日のひろくんはなんだか違う。

別に冷たいとか、怒っているとか、そういうのではない。
何か、雰囲気が違うのだ。


ここまできて聞かないとはおかしいだろう、そう思い用件の内容を尋ねる。


「ひろくん」
 
「どうしました?」
 
「用事って、なんでしょう?」
 

そうすると、ひろくんはくるっと振り返って一言。
 

「内緒です」
 

そうですか。
 

なんだか寂しい気もするけれど、おとなしく付いていくことに。
………おいしいものでもくれるのでしょうか。
 
 
 




靴もはきかえて外へ出ると、向かう先はグランド方面。
まさか運動を?そう思った矢先、ひろくんはテニスコートへとはいって行った。
 

「ひなさん、こっちです」
 

そう言いひろくんが扉を開けたのは、小さくも大きくもない、少し古い小屋のようなところ。
いや、正確にいえば部室?というもの。
 
運動部に縁もゆかりもないわたしは、何があって何が必要なのか、そんなものまったく知るよしもない。
 


黙ってはいってみると、そこには昨日の彼らが待ってました、と言わんばかりに異常なテンションで迎えてくれました。
 


「ひなせんぱあああい!」
 
「っわ、」
 
「待ってましたよ遅かったじゃないですかあ!待ちくたびれちゃいましたっ」
 

ささ早く、そう言われソファーへと案内される。
 
遅かったじゃないですか、そう言われても用件を知らないので早くこれませんって。
幸村くんが手招きをしてくれるソファーへと一直線。
 
ここで断ったら意地でも座らされるんだろうな。
 

「柳生、ありがとう」
 
「いえいえ」
 

わたしは誘拐されたのでしょうか。
 

異常なほど笑顔のみなさんが私を直視しているのです。
その顔の裏に何があるのかは知りませんけれど。
 

「さあ、ひなちゃん」
 
「ふぇ?」
 
「お返事を聞かせて頂戴?」




おへんじ?


 

「……???」
 



なんの事ですか。全力で質問を返したく、つい口からでてしまった。
 

「あの、…何にことですか?」
 
「あれ?机の中の紙みてねぇの?」
 
「あれは俺の力作だったんだけどな」
 

びっくりする丸井くんに、がっかりする柳くん。


そもそも机の中の紙って…、まさか。
 

「あの、マネージャー勧誘のですか?」
 
「そうそう!で、みてくれた?」
 

朝、幸村くんに抱っこされて教室へついたとき、机の中に変なものが入っているのに気がついた。

その紙の内容は、テニス部マネージャーへの勧誘。
そんなまさか、この私が招待されるわけない。
 
何かの間違えだろうと思い美由ちゃんに見せたところ、「そんなのいたずらよ!ひなの可愛さに嫉妬して呼びだそうとしたんだわ。貸して!」と言われびりびりに破れてお陀仏。

だから、マネージャーの内容を聞いてみることに。


「マネージャーのお仕事は、どんなことをするのですか?」
 
「たとえば、応急処置したりスポーツドリンク作ったり、洗濯とか記録つけかな?」
 
「俺が今やっているが、大会が近いからマネージャー募集にしたんだ」
 

どうやら今まで柳くんがやっていた様子。
たしかに家事全般特意そうですもんね、柳くんは。
 

「どう?引き受けてくれないかな」
 
「…う、」
 

体力がないの承知でマネージャーをやるか、それとも体力がないので断るか。
 
だけれど、せっかく誘ってもらったのに断るのは失礼。
それに、私を選んでくれたのに、お友達にもなれたのに、こんなところで裏切るようなことをするのも失礼。
 
迷惑をかけること前提で、やるしかないのでしょうか。
 

「俺たち仲良くなったじゃろ」
 
「………ぇ?」
 

不意につぶやく雅治くん。


「天津なら、信用できると思って誘ったんじゃ。今までのは全部ミーハーだったしの」

「ひなさんなら、絶対に仕事をさぼったりも、ミーハーでもないと思って」
 
「……だから、さそったんだ」


テニス部を取り巻いている女の子たちは、前納宮さんはじめみんなお嬢様のくるくるした頭の女の子。
ちょっとでも近づけば命がないよって美由ちゃんに教えてもらったけれど、わたしだとすぐ死んじゃうな。
 
でも、私を頼ってくれることがうれしい。
 


私を信じてくれるみんなが、だいすき。



だから、これだけはお願いしたい。
 

「ふたつだけ、約束してください」
 
「?」

「勝手に休むことがあるかもしれないので、それを前提でお願いします。
あと、…ファンクラブの人から、その、…守ってください。いじめ、とか痛いの、いやなのです」
 

はずかしくなってだんだん下を向いていってしまった。
 

そしたら、みんなが笑顔で、
 


「もちろんだよ」
 


口にそろえて、頭を撫でて、赤也君はだきついて、笑顔で言ってくれた。








「よろしくね、マネージャーさん」
 
「……はいですっ」
 













今日から私は、テニス部マネージャーです。
 


(じゃあ今日はもう解散!)
(やったー!)
(…ぇ、え?)
 
 
  

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