嘘つきピエロ

□小さなピエロ
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俺には今、気になる子がいる。
 


「……っわ、」
 


今まで女子なんてまったく興味がなかったけど、この子は特別。
ほっとけないくらい可愛くて、小さくて。


名前は、天津ひなちゃん。

 

「ゆきむら、くん?」
 
「…え、あ……何?」
 
「何か、…御用でしょうか?」
 

なでたくなるような可愛さと、ふわふわの髪。

彼女と初めて出会ったあの階段。
落ちてきそうになったひなちゃんは、とても軽かった。
 

それと、天使に見えたから。
 

真田や柳生、柳曰く1年生からいたっていうんだけど、
女子に興味がないから誰がどんな子なのかすらわからない。
 


どうせ、ミーハーでしょ?
 
 

「ううん、なんでもない」
 
「ならよかったです。体調悪くなったら、言ってくださいね」
 
「ありがとう」


彼女は、すごく優しい。
 

今まで仁王や丸井が連れてきた隠れミーハーやもろわかりミーハーな女子と、
第一に部員の健康を優先して考える彼女はまったくもって違う。
 
そう、貴族と農民みたいな?
 


初めて会ったときから、ひなちゃんにマネージャーを頼みたかった。
彼女ならできる、俺の予想は的中。
 

それに、一目ぼれだった。
 

生まれて初めての一目ぼれ。
たとえばひなちゃんが誰か違う男子と話してたりすると……、ほら。
 

「雅治くん、ちゃんと練習してください」
 
「休憩じゃ、休憩」
 
「10分前にもとったじゃないですか…」
 
「ひなは厳しいナリ」

「…っもう!」



こんなのを見ると、今にも相手を握りつぶしたくなる。
というか、いつから名前で呼びあうようになったんだろう?


胸がもやもやするっていうか、今すぐ離れさせたいっていうか。


自分より上手いテニスプレイヤーをうらやましがるみたいな感じ。
つまり、嫉妬、うらやましさ。




こんな俺、格好悪いんだけどな。
 



「ひなちゃん」
 
「はい?」
 



大きな目で俺を見てくれるひなちゃん。
 

俺の予想だと、テニス部の連中みんながひなちゃんのことを好きだと思う。
気づいてなくても、好意を寄せているんだと思う。
 
かわいくて、優しくて、妹みたいなひなちゃん。
 

…………これじゃロリコンじゃないか。
 
 

 
「どうしました幸村くん」
 
「精市」
 
「ぇ?」


 
「俺のこと、精市って呼んで?」
 


突然言ったことにびっくりして、目を開くひなちゃん。
でもそのあと、小さな口を開いて言ってくれた。


「せい、いちくん」
 

真っ赤な顔していうひなちゃん。
 

可愛い、ほんとうに可愛い。
なんか俺、変なひとだよこれじゃ。
 
 

「なに?ひな」
 
「……ぇ、う…!」 
 
「ははっ、かわいいんだから」
 


ちょっとからかっただけで泣きそうになるひな。
これ以上泣かせちゃうと、俺が追い詰められちゃうからやめるけど。
 

「ふふ、なんでもないよ。がんばってね、マネージャーさん」
 
「…は、ぃ」
 

かわいい、俺の………いや、みんなのマネージャー。
 
 
 

 



(あ、ひな)
(なんですか?幸村くん)
(…………精市)
(は、ぅ!……せ、せいいちくん)
 
 

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