嘘つきピエロ

□カッターとピエロ
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「…………けほっ、げほ」
 

コンコンととまらない喘息。
朝から真田くんやひろくんがとても心配してくれました。
 

お昼にも薬を飲んだのですが、朝より悪化。


部活を休む勢いですが、そうもいかない様子。
というか、わたしがしないから。
 

「ひなさん、保健室行きますか?」
 
「だいじょうぶです、…けほ、っげほ!」
 

5時限目の英語の教科書を出しながら、背中をさすってくれているひろくんにこたえる。
まるでゆうちゃんみたいなひろくん、本当にありがたいです。
 






カラン、
 






「……え?」
 



教科書を開いたと同時に、中から落ちてきた刃が丸出しにされたカッターナイフ。
あともう少し奥に手を置いて本を開いていれば、確実に深く手を切っていた。 


それどころか、しばらくピアノが弾けなくなっていたかもしれない。




「………ひなさん、どうしました?」
 
「い、いえっけほ!…カッターっけほ、おとしただけですからっげほ、っげほ」
 


気付かれないように、ばれないように、感づかれないように。
ついつい、隠してしまう癖で真実を言えなかった。
 

わたしが落としたかのように見せかけて、私が落とし方のように拾う。




嘘は、私の得意分野でしょう?
嘘は、私のひとつでしょう?
 




「………ならいいですけど、気を付けてくださいね」
 
「ありがとうございます、っけほ」
 




何事もなかったかのように始まった授業。
何事もなかったかのように話しを聞く私。
 

ひろくんにばれてませんように。
 




こんなことを思ったらいけないはず。
すべて話さないといけないはずなのに。
喉まで出かかった言葉は、いつも不安に消されて外へとでない。
 



――バレテマセンヨウニ、ワタシハダイジョウブ。
 







今日から狂いだした私と、この間から始まった小さないじめ。
 

悲劇はまだ先のお話。
まだ、まだ小さな序章にすぎない。
 
 

 

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