嘘つきピエロ

□入院とピエロ
1ページ/1ページ

 





夢を見た。
 



パパとママが、ゆうちゃんを連れてわたしのところへくる夢。
でも、わたしは見えないの。
 

わたしだけ真っ暗なところにいて、わたしだけ見えてないの。
 



手を伸ばしても、どんなに叫んでも気付いてくれない。
 






ヒトリボッチノユメヲミタ、サミシイカナシイユメ……――――「ひなちゃん!ひなちゃん!」
 



「ひな、大丈夫か?」
 
「ひなちゃんっ」




パパとママが呼んでる。……それにゆうちゃんの声も……、……あれ?
真っ暗なところにいて、わたしは見えてなくて……
 


「ママ、とパパ……?」

「ひなちゃんっ!」
 
「ひな!」

「ぅ、わ!」
 


お正月以来あってなかったママとパパ。
2人ともスーツ姿で、仕事の格好だからきっと急いでやってきたんだと思う。
 
幻かと思ったけど、やっぱりパパたちの顔。
 

何も変わってない、ママのウェーブした綺麗な髪。
何も変わってない、パパの泣き黒子。
 

何も変わってない、2人の声。
 


「ひなちゃんが入院したってゆうちゃんから聞いて、急いでやってきたのよ!」
 
「先生から病状は聞いたよ、大丈夫?」
 
「……ぅん、それよりお仕事…」
 
「いやだひなちゃん!お仕事なんて部下がやってくれるわ!」
 
「会議があったんだけど全部任せてきたよ」
 



ママもパパも全然変わってない。
 

パパは海外を拠点とする大手取引会社の社長、ママはそのアシスタント兼ドレスデザイナー取締役。
2人とも大事な役割を全部部下に任せて日本にやってきたって……、鬼畜すぎるでしょう。
 



「ひなちゃんに変えたらどうってことないわ!」
 
「僕たちも、ひなが退院してから2週間までいるから」
 
「………でも、」
 
「ひなが大事なんだ、雄二も心配してるし。…それに」
 
「わたしたちの大事な娘だもの!」
 




ママとパパの娘。
迷惑ばかりかけてるけど、ありがとうって言いきれないけど。
 


わたしは、パパ達が大好きみたい。
 








「ありがとう…っ…ございます」
 







「「どういたしまして」」



優しい手で涙を拭いてくれるパパと、ものすごい勢いで抱きしめてくるママ。
 



でも、それがうれしいの。
ずっと涙が止まらない、入院1日目の夕方のこと。

 






(ま、ママ…。ひなちゃん死んじゃうよ!)
(え?……っひなちゃん!)
(ママ、強く抱き締めすぎなんだよ)
 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ