嘘つきピエロ
□幼馴染とピエロ
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俺が持ってきたでっかいうさぎとくまの人形抱えて笑うひな。
「あほちゃうかひな」
「へへっ、ゆうちゃんこそあほちゃうか!」
「ひなに言われたないわこのドアホ」
「あぅ、のびる!」
俺の可愛い幼馴染。
ひさしぶりの声、とちょっと痩せたひな。
***
「109、109…」
神奈川県立市民病院。
俺の親父が勤めてる病院。
昨日の夜、ひさしぶりに電話がかかってきたと思ったら最悪の伝言だった。
『ひなちゃんが入院してん。血はいてしもた』
一瞬死んだんかと思ったわ。
血はいたなんて何年ぶりやろ。むしろ入院が何年振りか聞きたいわ。
あせって今日は学校休んでやってきたっちゅうわけ。
それほどひなが好きやねん、俺。
小学校のとき、親父について大阪から神奈川に遊びに行った時。
病院でいちごのパジャマきたかわいいちっこい女の子が、親父のこと忍足先生言ってついてあるいとったわ。
それがひな。
小学校のときは頻繁に入院しとったさかい、親父のとこに行くと必ず入院しとった。
中学校に入ってからはばったり会う機会もなくなったし、なんせお互い忙しいし。
東京と神奈川は近いけど、会うって言ったらひなから招待されるコンクールか演奏会。
めっちゃ上手いんやで?
「ここやない?」
“ 109 天津ひな ”
ひなの大好きなクッキーと、でっかいうさぎとくまの人形抱えて扉の前に立つ俺。
どんな顔して入ったらええ?
笑顔やろな。
どんな言葉かけたらええ?
ひさしぶり、やろな。
どんなふうに接したらええ?
いつも通りでええんちゃう?
なんやろ、この気持ち。
彼氏なんてできとらんやろな。
お兄ちゃんショックやわ。
「どうぞ、」
中からの返事の声に、扉をあける。
「ひな、ひさしぶり」
「……ゆ、うくん?」
初めてであったあの日と全然変わらん、可愛いひな。
誰にも取られたくないと思った今日。
なんやろね、この気持ち。
(恋なんてありえへん、むぎゅ)
(ゆ、ゆうく、ん!)