氷姫

□傷心
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カスイに背負われてきたトウカを見て綱手は息を呑んだ。

細胞一つ一つが傷つけられている。治療法が分からない。既に息絶えかけていると思われる。

「カスイ…トウカ殿は…」

綱手の低く沈んだ声にカスイは頷いた。

わかっていたことだ。戦場にいたとき自分の目で納得した筈だった。

「ヒスイ…」

ヒスイはハッと顔を上げた。目の前で血だらけの父が小さく呟き微笑んだ。

「お前が…生きていて良かっ…た…」

ふっと父の力が抜けるのが分かった。

「ちっ父上!綱手様!父上のチャクラが…流れが止まっちゃったぁ!」

ヒスイの叫び声に心臓が握りつぶされる心地がしたがヒスイの一言にカスイは疑問を抱いた。

「(チャクラの流れが止まった…?)」

そっとヒスイの目を覗き込みギョッとした。

妹は父を失った悲しみと恐らく自責の念に苛まれて大粒の涙をこぼしている。だが、その涙に潤んだ目は赤い写輪眼。

「(曲玉は1つ…不完全だが…四歳で開眼だと…)」


無論カスイだって父を失ったのは辛い。母は既に亡くなりこれで両親共に死んでしまった事になるのだ。
これまで十年以上共に暮らし、共に母を見送った父。

それなのに…それなのになぜ泣けない?なぜ感情が素直に出せない?
暗部だから?隊長だから?

ヒスイのように素直に感情が出せたならどんなに楽か。

カスイは知らず知らずのうちに唇を噛み締めた。


「う…兄上ぇ…ひっく」

涙をポロポロこぼしながらヒスイが見上げてきた。
その頭をくしゃりと撫でた。

「ヒスイが…ヒスイがもっと強ければ…!」

「そうだな…お前がもっと強ければ父上は死ななかったかもしれないな」

「カスイ!もうちょっと別の言い方してあげれば良いのに」

「シスイ、ヒスイには酷だけどこれは事実なんだ。ヒスイの父でありオレの父でもあったんだよ…。ヒスイ、今は強ければと泣き言を言うことより次にどうするか決め、実行していく事が大事なんじゃないか?」

カスイの言葉にヒスイは黙って下を向いた。
ショックのあまり忘れていたがトウカはヒスイだけの父ではないのだ。
兄の大切な父を奪ってしまったのだ。



涙を拭い決意した。
自分の身は自分で守る。自分の為に誰かを犠牲にしないで済むよう強くなる。
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