暁雪
□曙天
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「ヒスイ様、今日はこのくらいに」
「そうね。シュウもお疲れ様」
「ゆっくり休んでください」
羽隠れの里を作ってもう一週間経つのだ。ヒスイはパタンと正庁の扉を閉じた。緊急時に備えて家は仕事場の後ろに作ってある。
「ん?」
ヒスイは家へ向かっていた足を止めた。背後に気配を感じた。殺気のまるで無い穏やかな気配。
ふわりと抱き締められた。仄かに懐かしい香りがした。
「え…?」
「久しぶりだな、ヒスイ」
心臓が一つ、大きく跳ねた。
夜で良かった。よく冷えた夜気がのぼせそうになった頭を冷やしてくれる。とはいえ月の国は北国。ずっと立っていると寒い。
「イタチ、家に上がってってよ」
鍵を開け、灯りを点けると暖かい光が漏れた。
「大きな家だな」
「うん。禁術とかいっぱい保存してあるからね」
「…それ言って良いのか?盗られるかもしれないぞ」
「イタチは大丈夫…だよね?」
「あぁ。だから万華鏡をしまえ」
一応人の来ない奥の和室に通した。火を入れようとしたら横から火が飛んできた。驚いて見るとイタチが印を結んでにっこり笑っている。思わずつられて微笑むとイタチが急に真面目な顔になった。フラフラと視線が泳いでいる。
「ヒスイ…その…」
珍しくイタチが言いよどんでいる。いつも出してる写輪眼をしまった黒い瞳。ヒスイはイタチには黒い瞳の方が似合うと思っている。真っ赤な顔がなんとも言えない。見ているとこっちまで恥ずかしくなってくる。
「結婚…してほしい。羽でなら会える」
ヒスイは小さく笑ったが、その顔はとても悲しそうだった。
「サスケに命あげるつもりなくせに…本当は木の葉が大好きなくせに…酷い人。でも私も少しの間でも長くイタチといたい。羽にイタチの手配書は入れてないから安心して」
2つの影が重なった。