短編

□初版グリム童話シリーズT
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昔、亭主とおかみさんがいました。2人は長いこと、子どもがほしい、と願っていましたが授かりませんでしたが、ある時とうとうおかみさんが身籠りました。

この夫婦の家の裏側には、小さな窓が1つあり、そこからある妖精の庭がみえました。その庭はあらゆる種類の花や薬草で一杯でしたが、そこに入ることは誰にも許されませんでした。ある日おかみさんが窓辺から下を見ていると畑に植わる素晴らしいラプンツェルが目に入り、欲しくて堪らなくなりました。でも取ってはいけないのを知っていたので、おかみさんは痩せこけ、惨めな有り様になりました。亭主が驚いてわけを聞くと

「ああ、うちの裏の庭のラプンツェルを食べられなかったら私はきっと死んでしまうわ」

亭主はおかみさんが大切だったので、どうなってもかまわないから取ってきてやろうと考えて、ある晩、高い塀を乗り越えると大急ぎでラプンツェルを一掴み抜いて帰りました。おかみさんはそれをサラダにして、がつがつ食べてしまいました。けれども美味しくて堪らなかったので、次の日、おかみさんは前の日の三倍もラプンツェルが食べたくなりました。

亭主はもう一度庭に忍び込みました。ところがそこには妖精が立っていて、自分の庭に忍び込み、盗もうとしたことを怒りました。亭主は一生懸命謝って、おかみさんが身籠っていて、願いを叶えてやらないとどれほど危険であるかを話しました。しまいに妖精は言いました。

「仕方がない。好きなだけラプンツェルを持って行くがいい。おかみさんが身籠っている子供を私に渡すならね」

亭主は恐ろしかったので言われた事を全て承知してしまいました。そして、おかみさんがお産をすると、妖精はすぐやって来て、その小さな女の子をラプンツェルと名付け、連れていってしまいました。

ラプンツェルはお日様の下で一番美しい子供になりました。けれどもラプンツェルが12歳になると、妖精はラプンツェルを高い塔に閉じ込めてしまいました。その塔には上の方に小さな窓が1つあるだけで戸口も階段もありませんでした。妖精は中に入りたい時には塔の下に立ってこう叫びました。

「ラプンツェル、ラプンツェル!
お前の髪をたらしておくれ」

ラプンツェルはまるで金を紡いだような見事な髪をしていました。妖精がこう叫ぶとラプンツェルは髪をほどき、窓の止め金に巻き付けました。20エレも垂れ下がった髪を伝って妖精は登ってくるのでした。

ある日のこと、一人の若い王子がこの塔のある森を通り、塔の上の方の窓辺に美しいラプンツェルが立っているのを見ました。そしてそのあまりに愛らしい歌声に、王子はすっかりラプンツェルのとりこになってしまいました。しかしその塔は梯も届かないほど高く、入口も無かったので王子はがっかりしました。それでも毎日出かけているうちに、妖精がやって来て言うのを見ました。

「ラプンツェル、ラプンツェル!
お前の髪をたらしておくれ」

王子はどんな梯で塔の中に入ることができるかをすっかり見てしまいました。唱える言葉も覚え、翌日、暗くなると王子は塔の下から上へ向かって言いました。

「ラプンツェル、ラプンツェル!
お前の髪をたらしておくれ」

するとラプンツェルが髪をおろしました。王子はそれにしっかりつかまり引き上げられました。

ラプンツェルは初めこそ驚いたもののまもなくこの若い王子が大変好きになり、「毎日来て下さい。引き上げて差し上げますから」と約束しました。妖精はその事に気付かず、二人は愉快に楽しく暮らしました。ところがある日のこと、ラプンツェルが妖精に言いました。

「ねぇ、名付け親のおばさん、私のお洋服きつくなっちゃって私の体に合わなくなったの。どうしてかしら」

「この罰当たりめが、なんてことを言うんだ」と妖精は言い、すぐに騙されていたことに気付きかんかんに怒りました。妖精はラプンツェルの美しい髪を掴むと2、3回手に巻き付けてはさみで切ってしまいました。それから妖精はラプンツェルを荒地に追い払いました。ラプンツェルはそこで惨めな暮らしをし、男の子と女の子の双子を産みました。

ラプンツェルを追い出したその日、妖精は晩になると、切り取った髪を窓の止め金にくくりつけました。王子がやって来て、

「ラプンツェル、ラプンツェル!
お前の髪をたらしておくれ」

と言うと、妖精が髪をおろしました。塔の上にいたのが愛しいラプンツェルではなく、妖精だと分かったとき王子はどんなに驚いたでしょう。怒り狂った妖精は言いました。

「いいか、お前のラプンツェルはもう居ないんだ、悪党めが」

それを聞いた王子は絶望して、そのまま塔から身を投げました。命は助かりましたが両目は抜け落ちてしまいました。悲しみに沈んで王子は森の中をさ迷い歩き、食べるものといえば草や根ばかり、することといえば泣くばかりでした。何年かして王子はラプンツェルが子供達と惨めに暮らす荒地にやってきました。ラプンツェルの声が王子にはひどく聞き覚えのあるように思えました。瞬間、ラプンツェルにもそれが誰か分かり、王子の首にすがりつきました。ラプンツェルの涙がふたしづく王子の目に入ると王子の目ははっきりとしてきて、元通り見えるようになりました。




出典:初版グリム童話集 白水社 1998年
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