僕と彼女の殺人

□動き出す歪な歯車
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なんて話をしてるうちにいつの間にか駅にたどり着いていた。
まぁ、学校から駅まではわりと近いのでそこまで驚くことでもないけどね。

「じゃあ、僕はこっちの方向だから。」
改札をくぐって下り線のホームを指さす。
「あら、私もそっちの方向よ。」
電車の方向まで同じとは……作者を呼んで来い。この作品をこのまま学園恋愛ものにするのか問いただしてやる。


「杏くんってどこに住んでるの?」
「僕は小枝橋のほうだよ。」
「そうなの?私もよ。」
………。
………………。
………………………。
沈黙。
「ねえ、夜久野さん。もし僕が巷で噂の殺人鬼だって言ったらどうする?」
待ち時間があまりにも退屈だったので暇つぶしにさりげなくカミングアウトしてみる。
「そうね―でも私と同じ匂いがするぐらいだし、それぐらいのことなら驚かないわ。むしろ大歓迎ね。」
「え?」
でました、電波発言。
どういう意味なのか僕にもさっぱり理解できません。

「私にはね、常に死が付き纏うのよ。」
彼女の瞳は僕の姿を視界から外し正面を見据えた。
「ほらね。」
何の前触れもなく彼女が単語を口にする。
夜久野さんの瞳の温度が一層冷たくなった刹那、僕たちの向かい側、つまり反対のホームに立っていた中学生くらいの少女がホームから飛び立った。

そして…。
ドンと鋼鉄の車両にぶつかる音とグチャと体がミンチにされる生々しい音が非常ブレーキの甲高い音よりも目立つように鼓膜を震わせて、電車が少女を跳ねた事を見るより先に脳に認識させる。
辺りには血と肉片が飛び散りホーム全体が悲鳴に埋め尽くされる。
そんな中、少女の血飛沫を顔面に浴びている夜久野さんはただ一人、笑っていた。
残酷な笑みで、無邪気に笑っていた。快楽に酔いしれるような恍惚の表情にも見えた。

「やっぱりそうか。」
誰にも気付かれないように静かに呟く。
やはり彼女は同じだ。僕と同じで、目の前の惨劇が無意識のうちに感情に直結して笑みに変わる。

彼女も歪そのものだった。
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