四重奏〜カルテット〜

□日常風景
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「ねぇ、聞いてる?」
俺の目を真正面から黒い瞳が見つめていた。
俺を見つめている…と言うよりは睨みつけている瞳の主は柊 蓮奈。
幼稚園、小学校、中学校、そして高校とずっと一緒だった幼馴染みだ。

「あぁ…聞いてたぞ…多分。」
蓮奈の質問に答えてみるが
「聞いてなかったのね…。」
嘘はすぐにばれた。
「悪い、もう一回言ってくれ。」
呆れ顔の蓮奈に手を合わせて頼みこむ。
はぁー、とため息をつくと
「だから、明日は両親が出かけちゃうからいつもみたいに泊まりに行くからねって言ったの。」

………。
「それだけ?」
「そうよ。」
「なんだよ、そんなの毎度のことじゃねえか。いちいち聞く必要なんかなかった。」
愚痴りながら食事を再開する。
「なんだとはなによ。言わないと事前に言っておけって怒るから言ってあげたのに。」
そりゃあいきなり来られても困るからな。
「そんなの帰りに言ってくれればいいじゃねえかよ。なにも昼飯の時間に言う必要はないだろ?」

蓮奈とは家が隣同士なので帰りも一緒だし、なにより携帯持ってるんだからメールでも事足りるのに。
「別にいいでしょ、私がどのタイミングで話したって。そんなの私の自由よ。」
蓮奈が少し声を荒げる。

「俺はそんな話より昼飯の方が大事なんだよ。」
俺も対抗して少し声を荒げる。
互いに睨み合ってウーッとうなり声をあげる。

「はいはい、そこまで。夫婦喧嘩はそこまでにしとけ。」
俺たち二人の間に割り込むように男子生徒が介入してくる。
「ほんと、あんた達って仲がいいのね。ケンカするほどなんとやらってことかしらね。」
蓮奈の背後から女子生徒が呆れたような声で男子生徒の介入に続く。

「あのなー、耀介。何回も言ってるけど別に夫婦喧嘩じゃねえよ。」
持っている箸で介入してきた男子生徒を指す。
彼の名は藤堂 耀介。
こいつも幼馴染みで、大体はこいつと一緒に行動している。
もっとも、高校に入ってからはお互いに部活とかで忙しくなって別行動をとることが増えてきたが。
耀介は、そうかい…と俺の言葉を軽く流して、おれのすぐ隣の席に座る。

「由貴、私たちのどこをどう見たら仲がよさそうに見えるわけ?」
蓮奈も自分の背後から現れた女子生徒に反論の意思を含んだ質問を返す。
「どこをどう見たらって言われても、そのまんまじゃないの。」
蓮奈の質問をやんわりと、さも当然かのように返す。

彼女の名前は藤崎 由貴。
小学校三年のころに転校してきたお嬢様。
何故お嬢様かと言うと、由貴のお父さんは国内最大手の銀行の総頭取で、お母さんは世界的ピアニスト。
そんな二人の間に生まれたのが由貴で、要するに由貴は生粋のご令嬢って訳だ。
まぁ、話を戻すとして…。

「じゃあ二人とも、改めて言うけど『な』『ね』。『俺達』『私達』は夫婦なんかじゃない『の』。」

俺と蓮奈、二人同時に同じような内容を俺は耀介に、蓮奈は由貴に言う。
耀介と由貴は互いに見合って、同じように肩をすくめ、あきれるように笑った。
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