novel
□ぬくもり
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「紫苑…眠ってるか…」
たった今出来上がったスープを手に、ベッドまで近づく。
案の定紫苑はぐっすり眠り込んでいた。寝息まで立てている。
スープをゆっくりと机に置き、ベッドの端に座る。
かなり年季の入ったベッドは少し体重をかけるだけでぎしぎしときしむ。
紫苑の寝顔を見ながら、吐息を吐いた。
―――紫苑がこっちにきてだいぶ時間が過ぎた。疲れが溜まってきたころか…
いくらロストタウンだといっても、ここはあんたにとっちゃ大冒険なんだろう?
けどな、紫苑。あんたの知らないこと、まだまだたくさんあるんだぜ?
眠り込んでいる紫苑を上から見下ろしながら、心の中で語りかけてみる。
返事が返ってくるわけではないが、紫苑が寝返りを打った。
こちらに背を向けたので、むき出しになった紫苑の白髪をまさぐってやった。
「…くす、やっぱお坊ちゃんだよな」
あまりに無防備に眠っているので、そう思ってしまう。
おれを信じきっているのか?
純粋で真っ白なあんたをみてると、どうしてもいじめたくなるんだよな…
両手を紫苑の両サイドに置き、覆い被さる様な態勢をとる。
紫苑を仰向けにさせ、顔に近づく。
「紫苑、スープ出来た」
愛でるように、甘く優しく囁いた。
紫苑の静かな寝息だけが聞こえてくる。
ネズミはゆっくりと腰をかがめ、無防備に開かれた紫苑の唇に、自らの唇を優しく重ねた。