novel

□とりかえっこキャンペーン2
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「…」

おれが眠るベッドに柔らかな光が差し込む朝…

なんてのは実現しない地下の薄暗い部屋。
朝の光なんて差し込むわけがない。
鉛のように重い頭をゆっくりと起こし、袖をまくる。
腕には赤い蛇行痕が生々しく残っている。



…ー紫苑の体、か



軽く指でなぞり、あの日を思い出す。
紫苑の体を寄生バチが蝕んだあの夜…


目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。


「紫苑…」


囁くように優しく、隣の紫苑に呼びかける。寝息を立てて眠っている。
姿はおれだが、こんな無防備に涎を垂らした寝方するのはおれじゃない。
からかい半分で乾いた唇を軽くなめた。
紫苑がふっと顔を逸らせ呻いた。


「…んっ…ん〜」

「紫苑?」

薄く開かれた瞳をこちらに向け、焦点が定まらない中、髪の毛を見た瞬間目を見開いた。

「あ、ネズミ…?え、ぼく?…あ!」

「なに、動揺してんだよ。昨日のこと忘れたのか?」

「…あ、入れ替わった…んだ」

「そ、ご名答。おめでとうございます。で、悪いんだけどあんたそろそろ仕事だぜ?あんたが起きた時にはいつもおれいないだろう」

「う、あ!そうだった…舞台…」

「さあ殿下、お召し物は何になさいましょう?」


ひらりと一回転し、椅子に掛けてある服を掴む。
それを紫苑の前へ突き出そうとしたら、紫苑の両手が抑止した。

「え、まま待って!心の準備がまだ…」

「そんなもんあった方が重荷だ」

「それはきみだからだろう!」

「…さて、おれもそろそろ出掛けようかな。イヌカシのとこへ」

「なっ…ズルいぞ!」

「ま、せいぜい頑張ってみるんだな、ネズミ」


ワザと嫌みたらしく言ってみる。案の定ムッとして頬を膨らませている。

「……ふ、はは!大丈夫だよ、今日は気分悪いって言えば管理人がなんとかしてくれるから」

ぱっと表情を明るくさせ、目を輝かせた。

「本当か?」

「ああ、あの人はおれの言うことなら何でも聞いてくれる」

よかったあ〜と胸をなで下ろす動作を見ていると、正味気持ち悪い。
いくら紫苑だからといってもおれの姿でそんな素振りしないで頂きたい。


「…?ネズミ、どうかしたか?眉間にシワなんか寄せて」

ーヤバい、顔に出てたか…

少し微笑んで紫苑の顎に指をかける。

「いや。何でもございませんよ、陛下。さあ、今度こそこちらのお召し物を」

「…ありがとう」


渋々受け取った紫苑の眼には期待と安心の光が見え隠れしていた。
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