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□5月のとある昼休み
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5月上旬のある日、時刻は午後8時をまわったところ。

幹線道路から一本逸れた住宅街。

街灯が点在する薄暗い夜道を、恐らく部活帰りなのだろう、大きなエナメルバックを肩に掛けた男子高生が二人そろって自転車を漕いでいる。

近くで見ると友達同士にしか見えないこの二人だが、体格に大きな差があるためシルエットだけだとカップルのようにも見える。

背の高い方の名は村上暁(ムラカミアキラ)。好青年を絵にしたような、派手さはないが整った顔立ちをしている男だ。

一方の小柄な男子は、名を井田雄介(イダユウスケ)といい、こちらは二重瞼が印象的な、やんちゃ少年そのものの風貌である。


二人は閑静な住宅街を自転車で快調に飛ばす。



暁が額の汗をワイシャツの袖で拭いながら雄介に問い掛けた。

「そーいや雄介さぁ最近痩せた??」

暁に唐突に突っ込まれ、雄介はやや驚いた。

「へぇ。分かるもんなんだ。実はここんとこ部活から帰ったらクタクタでさ、夕飯食わないで寝ちゃうんだよね」

「ちゃんと飯食えよ。体調崩すぞ」

「おう。サンキューな。それにしてもお前よく分かったな。痩せたっつってもたったの3kgだぜ」

「いや、まぁ、なんとなく、な」

「ふーん。じゃ、また明日な」

「おう!今日はちゃんと飯食えよ!!」


ニッと笑いながら雄介が家の中に入ったのをしっかり見届けてから、暁は再び自転車を漕ぎ出す。


ただでさえ線の細い雄介の、最近またさらに痩せた躯を思い浮かべて、暁はため息を吐いた。

何故だろう。高校に入った頃から、華奢な雄介がバスケットボールの試合で体格の良い相手に吹っ飛ばされたり、転んだりするのを見ると、暁の胸が痛む様になった。

「いくら幼なじみだからって、心配しすぎかな。あいつだって男なんだし。」

雄介のことを考えると何だか胸がモヤモヤする。
暁は一言呟くと、雄介の家から500m程離れた自宅へ帰ったのだった。










「はよっす」

「あっ!黒沢先輩おはようございます!」

次の日の朝練の準備中、雄介はバスケットボール部3年の黒沢謙太(クロサワケンタ)に声を掛けられた。

「雄介さぁ、昼休み部室来れる?汚いボール処分するから手伝って欲しくてさ」

まだ入部して日の浅い自分に話し掛けてくれたことが嬉しくて、雄介は二つ返事で黒沢の頼みを引き受けた。

「いいッスよ。どーせ昼食った後は暇なんで」

「じゃよろしくな」

「はい。じゃ俺モップ掛けてきます」




雄介が走り去った後で、黒沢やその周りにいた者がニヤニヤと卑下た笑いを浮かべていることは、誰も気づいていなかった。
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