ブック2

□導かれるままに1
1ページ/17ページ

4月。入学式。

真新しい制服に身を包み、桜が舞う遊歩道を歩く。

今日から家を離れ、寮生活となる。

待ちに待ったこの日だが、手放しで浮かれる気分にはなれなかった。


浮かれる、ということを、ここ数年経験していなかったせいかもしれない。



父さんと母さんがいなくなったあの日から、俺はずっと暗闇の中で生活している。

俺は存在を親に認めて貰えていなかったのだと実感させられたから。




"俺はいらない子。"



それは強烈に、幼い俺の全身を支配していった絶望の響き。


俺はいらない子だから。
だから両親は、俺を連れて行ってはくれなかったんだ。




"だったら、どうして俺なんて生んだんだよ。"





虚しくなるだけだと分かっていても、この自虐的な思考は繰り返してしまう。



いやいや、今日は入学式だ。




暗い物思いにふけっていたが、なにもこんな日まで落ち込む必要ない、と少し大きめに息を吐いた。


あらためて周りを見渡してみると、新品の制服を着た生徒が大勢いる。
皆揃いも揃って楽しそうな笑顔を浮かべている。


それもそのはず。名門中の名門校の、晴れの日である。

大企業や財閥の御曹司がゴロゴロいる中高一貫の全寮制男子校。
偏差値・学費・評判すべて全国でもトップクラスだ。



周囲の和やかな雰囲気に、俺は早くもこの高校に来たことを後悔していた。

周りはきっと、恵まれた人生を送っているエリートばかりだ。
将来のためにパイプを作り、エリート人生をより鉄壁のものにするためにここに来た奴が大半だろう。


それに比べて、俺はなんなんだろうな。



全寮制度と奨学制度いう点のみに惹かれてここの高等部を受験した。
あの家にいたくない一心で。


周りの奴らとの格差を考えただけで、心臓が押しつぶされそうな嫉妬に駆られる。


この醜い嫉妬心と、俺は少なくとも3年は耐えなきゃならないのか。

「しんどいな」


俺の呟きは、生暖かい春風とともに、どこかへ消えていった。




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ