VOC@LOID

□これが日常
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※memoの小ネタ(加筆あり)





冷えきった手を小擦り合わせて、小さく息を吐いた。
あと5歩で、温かい我が家に到着だ。


「うー…さぶ、」


脳を通らずに自然と零れる言葉と一緒に鍵を開けた。
とうに、指先の感覚なんてなくて、思わず鍵を落としそうになる。
それくらい、今夜は冷えてる。

まぁ、この寒さともあと数秒でおさらばだけどね!と、目を閉じてドアを開けた。



「ただいま」
「マスター!!!」



いつもの言葉。
そして、いつもの
体温。


わたしの“ただいま”の“ま”と
目の前の青が発した
“マスター”の“マ”が見事に重なった。


「寒い、苦しい、どけ、カイト」
「あれ?マスター声震えてますよ?」



扉を開けて、すぐ視界に飛び込んできたカイトに小さく舌打ちをしてわたしは重い荷物を足元に落とした。
もう恒例の行為とは言え、デカイ図体でこうもガッチリと抱き止められては、溜め息しかつけなくて。


「寒いから!わかったら早く部屋に行かせて」
「まだ、ただいまのチューが、」
「しね」


ドンっとカイトの胸を押し退けると、シューンと肩を落としてわたしを解放するカイト。
まったく、毎日毎日飽きないな。
そんな事を思いながらブーツを脱いだ。


「マスターは恥ずかしがりやですね」
「カイトは変態ね」
「なっ!?マスター、俺の事何だと…、」


キュっと握った手を口許に宛てて、業とらしく腰を捻るカイトを置いてリビングへと続く廊下を歩き出す。

しかし、




「マスター」
「な…、っわ!?」


一歩踏み出した所で、思い切り腕を引かれてそのままカイトの胸に倒れ混む。
「危ないな!!」と見上げると、いつの間にかわたしの両手は、カイトの手に包まれて、彼の頬っぺたにあてがわれていた。

じんわりと指先が溶けていく。


「温かくなりましたか?」


優しげな瞳が細められて
さっきまで冷たかったわたしの頬は急激に熱を帯びた。


「…まぁね、」
「よかった。」
「冷たくないの?」
「冷たくても、熱くてもマスターの体温なら何でもいいですよ」


サラリとそんな事を言われて、思わず視線を反らす。
「マスターは恥ずかしがりやじゃなくて、ツンデレってやつですね」なんて続けられて、少しの悔しさが沸いたけど。
そのままわたしの手を握ったまま歩き出した広い背中を見たら、何も言えなくなった。


(ああ…、首に巻いてるお揃いのマフラーが暑い。)


さっきまでの寒さが嘘のよう。
赤い顔を隠すように、わたしはマフラーを脱いだ。






(今日のご飯は鍋ですよ、マスター)
(今が冬だって忘れそうだわ…)




2011.01.17(加筆) shi


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