VOC@LOID

□イチバン
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ピピピ…ジカンデス
そんな聞きなれたアラームが鳴って、俺は飛び起きる。寝てしまっていた


「いけない!時間!」


ガバリとお気に入りのタオルケットを払いのけると、俺は力強くルローリングの床を蹴る。
ダッツアイスよりお気に入りのマフラーよりそれこそ、歌より大切なマスターとの時間。
ガサガサと冷凍庫を漁って、お目当てを二つ引き摺りだす。

俺の
毎日の楽しみ。



イチバン



「マスター、マスター!」


バタバタとその二つのひんやりと気持ちのいい袋を両手に、リビングへと走っていく。青いマフラーを後ろに靡かせて、華麗に横開けの扉をスパンと開けた。


「マスター!仲良く一緒にアイスの時間ですよ!」
「さっきドーナツ食べたから要らない」


俺の言葉に、大好きな背中はそうサラリと返した。思わぬ言葉にぶらぶらと両手で揺らしていたアイス(金欠らしくて最近ずっとガリガリ君)を床にぼとりと落としてフリーズする俺。そんな俺の行動に、つまらなさそうにテレビのチャンネルを変えながらマスターは振り返りもせずにそう溜息を付いた。

信じられない。



「マスター!あんなにおやつ前には何も食べちゃダメですって言ったのに!」
「うっさいバカイト、あんたはわたしの母親か?!耳元で叫ばないで!」
「約束破ったのはどっちですか!わーわーっ!」
「うるさぁーいっ!」



耳元で喚く俺を心底ウザそうに睨んだマスターは、バシーンと凄い音を立て机を叩いた。思わずひゃっ、と飛び上がって隣りの部屋の壁へと隠れる。


「もー!毎日毎日春夏秋冬365日アイスアイスアイス!あんたを冷凍庫に詰め込んでアイスにするわよ!」
「…マスターずぼらだからそんなスペース冷凍庫に無いの知ってます」
「ちょっと、マジで冷凍庫片付してくる…」


スクっと立ち上がったマスターの腰にしがみ付いて移動する(引き摺られているともいいます)俺。
マスターは意外と力持ちさんですね。
…じゃなくて、このままでは本当にカチカチのアイスにされてしまう!
そうしたら、



「マスター!!」
「ぎゃあ!」


少し本気で力を入れると、くしゃりと紙みたいに腰を折ったマスターがそのまま床に倒れこむ。あはは、いい眺めだなぁ。でも俺はただ拗ねて言っている訳じゃないんです、マスター。
アイスだって、ホントは(少しだけ)どうでもいいんです!


「…カイト〜、どけぇ〜!」
「退きません!俺の話を聞いてください!」
「んもー!何なのよ!早く言えバカイト!重い痛い苦しいーーっ!」


ホントは、


「俺だって、苦しいです!」
「は、はぁ?」


ベソっと顔を歪ませてマスターの上でグイグイと服の袖で涙を拭う。そんな俺の突然の号泣にマスターはポカンと口を開けた。あ、喉ちん(ry


「カイト、そんなに一緒にアイス食べたかったの?」
「っ違います、いや、違わないんですけど!マスターは覚えてないんですか?」
「え?」


俺が初めてマスターの所にやってきた時の事。
『アイスが好きなの?じゃぁこれから毎日一緒におやつで食べようね、約束』って優しい表情で言ってくれたのに。色々不安だらけだった俺は、そんな貴女の言葉に救われたのに。


「初めての約束だったんです、俺に取っては…何よりも大切な初めての約束で…う〜〜!」
「ああ、覚えてる!カイト、覚えてるぐぇっ!」
「嘘です!さっきまで忘れてドーナツ食べたんでしょー!?」
「苦じぃ!カイト、マスター死にますぐぇー!」


ガクガクと半分白眼なマスターの肩を掴んで揺らすと、俺よりずっと小さい手の平が顔の前に現れた。その指先はある一点を射していて、思わず涙目でそちらを振り返る。すると、


「マスター、あれは」
「げほっ、バカイト、アンタにもドーナツ買ってきてあげたのよ」
「わああ、ホントですか!」
「それにアンタ、時計見た?」
「はい?」


リビングのテーブルに置かれていたドーナツの箱を持ってほくほくしていると、そんな質問がマスターから飛んでくる。

時計?もちろんです!
だって、マスターと一緒におやつを食べる三時に鳴る様に携帯のアラームをセットしておいたんですから!
まぁ、待ちくたびれてさっきまで寝てましたけど。


「そうだ!ドーナツで誤魔化されるところだった!マスターのバカ!三時のおや」
「良く見て」


再び思い出して憤る俺の首をグキっとリビングの壁に掛かっている時計に向けるマスター。視界で俺の爽やかな青い髪が揺れる。と言うか痛いですマスター。


「……三時の…おや、…つ?」
「はい、バカイトくぅん?今何時?」
「あ、れ?」


静まり返った室内にカチカチと響く秒針の音。それが、告げるは…


「じゅ、十六時…二十分?」
「はい、正解。」
「え?これ何の罠ですかマスター、俺未来にタイムリープして、痛!」
「三時にアンタの携帯のアラームは確認していません。さっき四時に鳴ったのは聞いたけどね」
「……つまり、」


設定時間間違えたオワタ\(^0^)/ってヤツですか?充電はバッチリなのに。俺が顔を青褪めたまま眼を丸くしていると、前から盛大な溜息。


「今日午前中お出掛けした時に、カイトと食べようと思って買ってきたのに、誰かさん起きてこないし。わたしはちゃんと三時に食べたわよ」


「独りでね」と口を尖らせたマスターをグイッと思い切り抱きしめた。すると再び「ぐえ」っとカエルみたいな声が耳元で聞こえた。


「マスターマスター!ごめんなさい!」
「いいよ分かれば。怒鳴られたのはちょっとムカついた」
「わぁあ〜!俺、てっっきりマスターがズルして先乗りしたのかと。しかもアイスじゃなくてドーナツ…」
「毎日アイスじゃ飽きる」
「飽きません!」
「飽きる」


そんなこと、絶対にないです。


「飽きません。だってマスター。マスターは毎日俺と居て飽きますか?」
「飽きる以前にウザイ」
「酷い!」


ほら、毎日こうしているのに。
毎日、俺のココロはちゃんと踊ります。


「俺は飽きないんですけどねぇ」
「はなせー、そんなんで誤魔化されるわたしじゃない!」
「暴れないでください」
「もう、それでドーナツ食べるの!?食べないの!?」
「食べます、せっかくマスターが俺に買ってきてくれたんですもん」
「あ、そー…」


マスターを小脇に抱えたままドーナツの箱を手に取る。まだ開けてもいないのに、甘い匂いが鼻に届いて顔が綻ぶ。


「じゃあ俺はドーナツ食べますから、マスターはアイス食べてくださいね」
「ええ!?」
「どうせさっき独りなのをいい事に三つも四つも食べたんでしょう?太りますよ」
「しねばいいのに」
「まぁまぁ、食べ終わったらいつもみたいに歌ってあげますから」



俺のイチバン。
それは、アイスでもドーナツでもなくて。



「マスター!」
「なに?」
「だいすきです」



大好きなマスターが隣りに居ることです。



「ねぇ、カイト」
「はい?」
「あんたさっきアイス落としてそのままだったから、床で溶けてるんだけど…」
「ドーナツはあげません」
「わたし、アイスはもういいから冷凍庫の掃除してくる」



たまに逃げたくなるけれど。




end
2010.04.12


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