企画小説

□そんなホワイトクリスマス
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世間では一般的に、クリスマスと呼ばれる日の練習帰り。


せっかくのクリスマス、二人で過ごせんかったから、どうせ明日休みやし、泊まっていかんか、と先輩に誘われ、僕は首を縦に振った。


……そりゃあ、一緒に居たいわけで。
断る理由なんて何もない、から。
親には友達の家に泊まるとでも言えばいい。
一緒に居れると思うだけで、自然と顔は笑顔になった。




「良、来てみ」

学校の玄関でスニーカーを履いていると、先輩が僕に手招きをする。

駆け寄っていけば、ほら、と外を見るように合図をされて。
どうしたものかと目を向ければ、空からはちらちらと舞い落ちる白い雪。景色は雪で真っ白。


「わあ……!」

「少しは雰囲気出たんちゃう?」


ふわりと微笑んでから、先輩は優しく僕の頭を撫でてくれた。

寒くないか、とか、体冷やさんようにな、とか、小さな優しさがすごく嬉しくて。


「、大丈夫です…!」

「ほんまか?」

「先輩、こそ…体冷やして、風邪とか、引かないでくださいね、」

「おーきに。でも滅多に風邪なんて引かんから、心配ご無用や」


二人で笑い合う。
…それだけで心がほんわり温かくなった。

これだけでも幸せなのに、今日は一緒にいれる。ずっと、一緒に。





「雪、結構積もったんやな」

「ですねぇ…。積もったの、久しぶりな気がします、」

他愛のない話をしながら、二人でゆっくりと並んで歩いていると、先輩が手の中で何かを動かしていた。


「…あれ、雪玉、ですか?」


ふといつの間にか、先輩が手で雪を握っていたことのに気が付く。


「せやよ、…ほい、良こっち持っててな」


ほい、と差し出された雪玉を受けとれば、伝わるのはひんやりとした懐かしい冷たさ。
昔よく作ったなあ、なんて遠い思い出が蘇った。

小さい頃に、冬が楽しかった記憶があるから、雪を見ると自然とわくわくするのかもしれない。



一方の先輩の方は、もう一回雪を手にとり、また雪玉を作り始めていた。


「わ…っ……!」


さすがにずっと持っていれば、素手だから冷たいし、体温で溶けてしまう。
…せっかく作ったのに、と先輩に視線を送る



「そんな顔せんで、ほら」


苦笑しながら差し出された手に、雪玉を渡した。

手に付いた溶けた雪を払いながら、何をするんだろう、と目をやってみる。


「ほっ…と、これで完成や」

「あ…!!…ゆきだるま、」


微笑む先輩の掌に乗ったのは、可愛らしい小さな小さな雪だるま。


「デカいの作るなんて言うて、転がすわけにもいかんしな。」

「わあ……!!なんか、クリスマスっぽいですね、」

「…まったく、久しぶりに見たで?
そんな嬉しそうな顔……」

「へ?!…うあ、スイマセン……」

「まあ喜んでもらえたんならいいんやよ。
でも、これどないしよ」


先輩は雪だるまに視線を落とす。
溶けてしまうだろうから、持って帰るのは無理だし…。
かと言って道に置いて行くのも何か気が引ける。


すると、目に入ってきたお馴染の場所。
…ああ、此処なら、と指を差した。


「あ、先輩…あそこなら」

「……お、いいんちゃう?」


近くにある公園。
ベンチがあったはずだし、その上なら、少しは可愛げもある気がする。



「ほー…やっぱり積もったんやなあ…」


見慣れたカラフルな遊具が白く雪化粧をしていて、また少し違った景色になっていた。



「おお、可愛い可愛い」


木の下にあるベンチに、そっと雪だるまを置いて、先輩が楽しそうに笑う。
だから僕もつられて笑った。


「これ、男子高校生が作ったなんて、他人が知ったらお笑いやろうな」


そう言うから、確かにそうですね、と同意したけれど、ちょっとはフォローしろと頭を叩かれてしまって。


「何か虚しくなるやんか」

「スイマセン、あの、……自分ほんと、空気読めなくて……」

「………お前、ほんまに謝る癖直さんと、周りの奴らに相当パシられるで」

「…あああもうスイマセンっ!!!!パシられても仕方な……ひゃあっ!!」


足元の雪のせいでバランスを崩したようで、視界が揺れて、体が傾く。
転ぶ、と思って目を瞑ったら、ぐん、と腕を引かれ、同時に先輩に体を引き寄せられた。


「…ったく、油断できんな…、ほんまお前、危なっかしすぎるで」


見上げれば、すごく近くに先輩の綺麗な顔。
わあ、とびっくりして一歩後退してしまった。


「…期待でもしとった?」

真っ赤になった僕を見て、ニヤニヤと笑う先輩は、やっぱりちょっと意地悪だと
思う。


「してない、です……っ!!!」

「…なんや、残念……」


そう言ってくすくす笑う先輩が、突然掴んだのは僕の左手。


「…まあ、今はこれで我慢しとき」


僕の返事も聞かずに、先輩は手を繋いだまま、歩き出す。

心臓の音がバレたら嫌だなあ、なんて思ったけれど、伝わる体温に嬉しさを覚え、何も言わずにそっと手を握り返した。




きっと僕が冬が好きな理由は、あたたかさ、っていうのを求めることができるからなんだと思う。

温かさ、暖かさも、どっちも求められるでしょう?

冬じゃなきゃ分からないあたたかさ、っていうのも、きっとあると思うし。



「今吉先輩、」

「ん?」

「僕、幸せです」

「なんや、いきなり」

「えへへ…、」

「ーったく、いちいち可愛いんやよお前はっ!!!」



僕にとってのそれは、幸せの証拠。
僕が一番好きなあたたかさは、全部先輩がくれるから。
先輩のあたたかさは、僕にとっての幸せだ。



先輩にとっても、そうであったらいいなあなんて思いながら、ゆっくりゆっくり足を進める。


「あ、雪……」


一度降るのを止めた雪が、再び街へと舞い降りる。


「ホワイトクリスマス、やな」

「…ほんと、何か嬉しいです…。」

「…うっしゃ、テンション上がって来たわー。
良、はよ帰ろうで。
もうすぐやから、着いたらココアでも出したるよ」

「あ、はい、ありがとうございますっ」



初めての僕らのクリスマスは、まだ始まったばかり。



(そんなホワイトクリスマス)




続く.





クリスマスどころか一年が終わった。
今年初小説がクリスマスネタってどうよ。

そして内容が意味不明かもしれないです。

ちなみに雪質や力具合によって、
雪玉は一瞬にして壊れたりするので注意。←


続きます。

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