企画小説

□A Snowball Fight!
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「クリスマス?…ウチには関係ありませんよ?年末ギリギリまで練習です」

笑顔で云ってのける悪魔には何を返しても敵わないことくらい、既に全ての部員は理解している。
だから余計なことは云わない。

「わかったならさっさと練習を始めなさい」

監督の指示に主将の今吉が練習開始の合図を出す。
もれなく全員から溜め息が零れた――のは、つい一週間前のこと。
気づけばもうクリスマスイヴという現実に、若松は再び深い溜め息を吐いた。
もちろん今日も明日も練習である。

「はぁ…気ぃノらねぇ…」

これではダメだと若松は自分を叱咤するが、これでも若松だって純粋な高校生男子なのである。
せめてチームメートと騒いだりはしゃいだりして、楽しい一日を過ごしたい。
昨年のクリスマスもこうだったのだから、尚更である。
しかし今は練習中。
集中しなければいけない。
そうでもしないと…。

「若松!!」

「は?…ぶっっ!?」

飛んできたボールを取り損ね顔面キャッチ。
…なんてことも有り得るのであって、痛くそして恥ずかしい思いをすることになるのである。

「〜〜ってぇ…!」

「若松さん!だっ、だっ大丈夫ですかぁ!?」

顔を押さえて蹲る若松に、桜井が半狂乱になりながら駆け寄った。

「何やっとんの若松〜。練習中にぼーっと突っ立っとんなや」

「すま、せん…あ、桜井、大丈夫だから落ち着け」

やれやれと云ったように今吉が眉を下げる。
若松はじんじんと痛む鼻を押さえながら桜井を宥めた。

「で、鼻血くらいは出たんやないの?」

「あ、はい…」

控え目に垂れてきた鼻血を指で拭い、つい啜ってしまった。
ダメですよ、と桜井にティッシュを渡された。

「一応保健室行って診てもらい」

「…はい」

元気のない返事をし、若松はとぼとぼと保健室へと向かった。


********


「顔面キャッチ?うーん…それなら早退した方がいいかもね」

鼻血さえ止まればすぐに練習再開できると思っていたのだが。
まさか帰れと云われるとは思っていなかった若松は、本日二度目の溜め息を零した。

「最悪だ…」

クリスマスの約半日は練習で潰れ、その代わりに頑張ろうと思った部活さえも早退する羽目になってしまった。
これを最悪と云わずして何と云えばいいのだろうか。

「あー…寒っ」

あまりの寒さに体を震わせる。
ふと横切った空き地を見やると、まだ足跡の付いてない真っ白い地面が目に映った。

「おぉ…!」

普段何でもないと感じていても、気分は奈落な若松にとって小さな白銀の世界はとても美しく見えた。
そっと足を踏み出す。
一直線に歩き後ろを見てみれば自分だけの足跡。
自分でも単純だとはわかっている。
けれども、今確実にどん底だった気分は上昇していた。
…していたのだが。

「あれ?こんなところで何やってんだよ、若松サン?」

「!あっ、青峰!?」

現れたのは、最早桐皇バスケ部名物と化したサボり魔青峰。
普通に練習に参加していればこんな時間に来るはずがない。
それなのにいるということは、現在進行形でサボり中だということだ。

「てっめぇ!また練習サボってやがんな!」

「そういうアンタこそ何でいるわけ?」

痛いところを突かれた。
一瞬怯んだ若松の隙をつき、ぐいっと顔を近づける青峰。

「わっ、なんっ、いきなり近づくな!」

「…何かアンタ、顔腫れてねぇ?」
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