企画小説

□手紙
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「なぁ、若松はクリスマス、何か頼むん?」

「は?」

「サンタはん」

冬らしい寒さが本格化してきた十二月中旬。高校近くの商店街はうざったいほどのイルミネーションに彩られ、テレビのCMもクリスマスケーキやプレゼントのものばかりとなった今日この頃。
気紛れで来てくれた(元)主将との部活帰りのことだった。

「…サンタって…マジですか主将…」

「え、若松信じとらんの?なんや、つまらんのぉ」

「ちょ……!」

冗談冗談と笑われて(色々な意味で)顔から火が出そうになったけれど、流石にこの人相手に暴言は吐けないので我慢した。第一、怒らせたら地獄を見るハメになる。

「子供の頃の迷信言うても信じてそうな奴もおるやろ。桜井とか」

「いや…どうだか…」

「ほんなら青峰とか」

「…もっとどうだか…」

正直青峰の名前が出てイラッとしたが、そんなのに食らいつくほどオレは子供じゃない。主将はまだサンタがどうとかアイツは信じてるとか話していた。なんだこの人、こんなにロマンチストだったのか。

「…桃井辺りは信じてそうッスね」

「あー、あの子は信じとらんで。サンタよりクロコ?言うんやっけ?アイツの方がええんやって」

「ああ…誠凛の…」

「女の子言うても高校生なんてそんなもんなんやろな」

はぁ、と何に対しての溜め息かわからないものが出る。マフラー越しなのに息が白い。地方程ではないが、都内だって冬は寒いのだ。

「可愛らしい考えなんて見えのうなって、ひたすら目の前のことに集中してまうんやな」

「…バスケとか、ッスか?」

「それもあるんやけど、やっぱワシらはこっちやな」

ユニフォームの入っているバッグからは数冊のノートと参考書。主将はバスケの道ではなく、勉強という安定した道を選んだ。さらに言うと、高校卒業後は実家へ帰り、親孝行も兼ねて家の近くの大学へ進学するらしい(ちなみに今までは親戚の家に居候していた、と言っていた)。
つまり、こうして隣を歩ける時間も残り僅かだということだ。

「…たぶん、バスケとは当分おさらばやな。一番集中せんといけへん時期やし」

「…そッスね」

「それ終わったらまた部活に顔出して、そんで全部終いや」

高校生活も、バスケも。
目の前にあるものが全て過去という形で処理される。主将の将来の形が決まりかけている今、余計な口出しは禁物だ。
例え、どんなに親しい間柄だとしても。

「…サンタ、ほんまにおったらええのにな」

「?…なんスか、いきなり」

「サンタはんやったら、欲しゅうてるもん貰えるやろ」

確かにそうかもしれないけれど。そうであったら喜ばしいことだけれど。
実際、サンタなんてのは架空の存在で、夢やら希望やらは与えてくれるかもしれないけれど、固形のものはくれるはずもなくて。
それ以前にこの人には幻想の壁を遥かに越える大学受験の難関が迫っている。
神頼みより宛にならないサンタへの願い。冗談混じりとはいえ、何処か張り詰めている部分もあるのだと思う。
自分の無力さに軽く失望しそうだ。

「…主将は何欲しがってるんスか」

「聞かへんでもわかるんとちゃう?」

「…合格通知、とか」

「ワシが欲しゅうとるんは人間や」

「……」

誰か、なんて聞かない。聞かなくても、今度は答えられる自信があるから。
それでも主将がこんな時期にまでオレと一緒にいてくれる理由はわからないのだ。好きだから、とかそんなことが聞きたいのではない。今は恋愛どうこうよりも勉強に専念しなくてはいけないのに。
どんなに欲しくても、手に入らないものはある。
でも逆に手に入れても、手放してしまうものだってある。
コートの上にいる時はあんなにも近くでプレーしていたのに、もうすぐこの人はあの距離も何百倍も離れたところへと行ってしまうのだ。
手放す感覚を、味わうのだ。

「…のぉ若松、いつまでサンタ、信じとった?」

「…言わなきゃ駄目ッスか」

「あかん」

「…小四ッス」

「ほんなら、サンタ宛に手紙書いたこととかあらへん?」

「はい?」

「ワシは小二まで信じとったんやけど、書いとった」

その手紙にはまず、サンタへという宛名、自分の名前と住所、そして欲しいものと感謝の言葉とやらを書くらしい。
子供らしい、可愛らしい手紙だ。

「ワシがその手紙書くとな、両親が出しとく言うて持ってってまうねん。あん時はサンタっちゅーもんが目の前におるなんて思わんかったんやけど」

「はあ…」

「せやから、お前の欲しゅうとるもん手紙に書いてワシに寄越しぃ。ワシもお前に“サンタ宛の”手紙渡したる」

「…随分女々しいッスね…」

「しゃあないやろ。お前は欲しゅうとるもん素直には言わへんしな。それに、」

欲しゅうとるもんは、ちゃんと伝えんとあかんねん。届けてもらう為にも。


遠回しに欲しがってるものを表した言葉に思わず固まってしまい、主将に笑われた。
クリスマスだろうとなんだろうと部活があるのは変わらないのに、この人はオレにどうしろと言いたいんだか。
そんなことを思いながらも、帰宅してから羞恥心を堪えて仕方なく“サンタ宛”の手紙を書き始めた。


クリスマス当日にとんでもない計画を聞かされるなんて想像すらせずに。
(若松が卒業したら同居決定しとるから)(どうっ…はぁ?!)(あ、ちゃう、同棲やな)



***

お粗末様でした^^

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