企画小説

□古びたマフラーの使い道
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「…さっみぃ……っ」

吹き抜ける風に身震いしながらマフラーを口元まで巻いて若松は外を歩いていた。

(つ―かもう何だよこの寒さ!!)

朝は太陽のお陰でなんとかなっていた寒さも、部活が終わってすっかり日が暮れた夜空の下ではたまった物ではない。大分毛玉が目立って来たこのマフラーも単なる気休めにしか感じられなかった。寮まで後数分、少しでも早く部屋に入って暖まりたいと思い疲労を訴える身体を無視して足を速めた。

「―――ぅぐっっ!!?」

瞬間、誰かに後ろから引っ張られて足を止められた。首にかなりの圧迫感と呻き声が出て、引っ張られたのがマフラーだと悟る。

「ゲホッ…っな…!!」

「お、やっと止まった。」

咳き込みながら直ぐ様振り返った先にいたのは、可愛げもクソも無い部活の後輩で問題児の青峰だった。

「ちょ…いきなり何すんだよ、テメェは!!首絞まんだろ!?」

「さっきまでフツーに呼んでたけど全然若松サン気付かねぇからよ―」

これなら気付くだろ―と思って。といつものニヤついた顔で悪びれもなく言いのける青峰に若松はまたイラついて青筋を浮かべた。

「…だったら引っ張る以外になんかあんだろ―が!!」

「あ―、だってこの方が若松サンいい反応くれると思って。」

わりとオモシロかったな、と薄く笑いながら言う青峰に益々怒りが込み上げて来たけれど、こんな所で突っ掛っても仕方ないし何より誰かに見られて問題になっても困る。思わず上がりそうになる拳を抑えて話題を変えた。

「…つ―か、何でお前こんな所にいんだよ。」

部活も出てねぇくせに。言外にそんな意味を含ませて言っても、青峰はそんな事には気にも留めずにさらりと返事が返って来た。

「ん―?別に…この時間ならアンタ来ると思ったから。」

「………は」

その言葉の意味を理解する前に青峰がオレに近付いて来て、気付けば手を伸ばしたら直ぐに届く距離にいた。青峰の珍しく真剣味を帯びた瞳に思わずたじろいで、無意識のうちに唾を飲み込んでいた。

「っ!!!」

すると青峰がオレの肩に触れた。触れた瞬間、反射的にビクッと身体が震えた。振り払う事くらい出来るのに、なぜか身体は動かない。

「つか若松サンさぁ…」

「―――――な、に…」

「アンタのマフラー随分ボロいのな。」

「―――っ!!?なっ………わ、悪かったな!!つか何でテメェにそんな事言われなきゃなんね―んだ、よっ!?」

先程の青峰の言葉や今の行動に若松の心臓は高鳴っていたのに、唐突な指摘にそんな物はどこか遠くに飛んでいった。その後に来たのは言い様の無い羞恥心で。からかわれたのだと気付いて声を張り上げれば、マフラーを掴まれて今度は前方へと引っ張られた。

「だってほつれてるし毛玉付いてるし。新しいの買えば?」

「―――――っ!!?」

ただでさえ近かった距離がそのせいで限りなくゼロになる。身長が近い為に視界は青峰の顔で占領されている。気のない口調の青峰の声を聞いて我に帰って暴れた。

「っお前には関係ねぇだろ!離せ!!」

「え―イヤ。…てか何怒ってんの?」

「っ!!…怒ってねぇよ!」

そう否定する声が間違いなく怒っている事を示しているのは若松も解っていた。理由、なんてこんな寒空の下で青峰なんかと一緒にいる事が理由なんだと自分の心に言い聞かせていた。

「嘘付け。期待したんだろ?―――手、出されるの。」

「―――――!!!ふざけんな、オレは何も…んぅっ!!?」

カッとなってまた大声で否定する途中で青峰の唇で文字通り口を塞がれた。一瞬の出来事だったのに、青峰の唇が離れても眼は青峰を映したまま、暫くの間固まってしまった。

「オーイ、生きてるか?」

若松サン、と平気な顔してぺちぺちと自分の頬を叩いてくる目の前の男に震える声で呟く。

「…………な、なにすっ………」

「は?見てわかんね―の?」

キスしたんだけど。その最後に言った青峰の台詞がいつまでも自分の耳に残っていて気が付いたらまた声を荒げて騒いでいた。

「な…何サラッと言ってんだコラァ!!つか何でこんな事すんだよ!!」

「あ―うるせぇなぁアンタ。別に初めてじゃね―んだし、今更だろ。」

「………ぅぐっ…」

面倒臭そうに髪を掻き上げながら言われて続けようとした文句がぐっと喉に詰まった。

―――そう、これが初めて、というわけではない。前からこういう事は度々あったのだ。何のつもりかサッパリ解らないし最初こそ拒絶していたそれを許している…というかハッキリ嫌だと言わない自分が一番わからないけれど。

「…お前、は…」
「あ?」
「―――…何でもねぇ。そんな薄着でよく平気でいられんな、って思っただけだ。」

―――オレの事、どう思ってんだよ。思わず喉まで出かかった言葉をしまって、不自然に切れた言葉を誤魔化すように青峰の恰好を指摘した。コートは勿論マフラーも何も着けていない。パーカーは防寒も何もあったもんじゃないのに。

「別に寒かね―よ。」

「お前はそうでもなぁ…」

こっちとしては見てるだけでも寒い。少し迷いはしたけど、自分が着けているマフラーをはずして青峰の首に引っ掛けた。

「こんなんでも着けてりゃいくらかマシだろ。…ど―せボロいマフラーだけどな!!」

掛けた途端に何だか自分で自分の行動に恥ずかしくなって来てそれを誤魔化したくて声を荒げた。何赤くなってんだよ、オレは…!

「………アンタってホント…」

「?な、何だよ…」

「かわいいな。」

「っんぅ!!?…ふっ…ぁ…ん…」

とんでもなく聞き捨てならない台詞に反応する前にまた唇を奪われる。今度は長くて深いキスで、思わず自分が掛けた青峰のマフラーをギュッと握り締めた。

「…はぁっ…あ、青峰…」

最後に唇を舐められて離れた青峰の唇。酸素が足りなくてぼんやりとする頭でただ無意識に青峰の名前を呼ぶ。

「好きだ。」

「―――………は?」

聞こえたのは青峰の声。低いけれど確かに響いて自分の耳に聞こえた。多分、好き、って………

「!!??な、なななっ…」

「日本語話せよ。…返事は?」

「―――――っ!!!」

酷く動揺するオレに冷静な突っ込みを入れて返事を訊いてくる目の前の男。視線を泳がせて黙っている間にも顔に熱が集まる。青峰はいつも通りニヤついた顔つきでこちらを見ているのに。何で、こんなに―――。

「うぉ、っ!」

気が付けば、青峰のマフラーを勢いよく両手で引っ張ってキスをしていた。一瞬触れただけの行為。でも、オレが顔を真っ赤にするには充分過ぎる行為で。間近でそれを見ている青峰は笑っていた。

「…何だよ!!」

「ふはっ…いや、そうだな…もっかいしたら許してやるよ。」

「!!?な………っバカ峰!」

そうしてまた重ねた唇は今までのどんなキスより温かかった。

古びたマフラーの使い道

(もうきっと、このマフラー使えねぇな…。ぜって―熱い。)

―――だって、着ける度に君の熱を思い出してたら寒さじゃなくて熱さに耐える方が無理だから。



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甘すぎて砂吐ける2人ですみません;
主催者様参加者様、読んで下さった皆様ありがとうございました!!

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