企画小説
□小さなクリスマスプレゼント
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十二月二十五日、クリスマス。
イエス=キリストの誕生日であり、家族や恋人、友達等と一緒に過ごし楽しむ日。
一応、そういう定義になっている。
しかし、桐皇学園男子バスケ部は例外だった。
クリスマスイヴもクリスマス当日も練習尽くし――という予定になっていた。
だが、どうやら監督が風邪を引いてしまったため、マネージャー桃井の行動力で本日の練習は急遽クリスマスパーティーへと変更になったのだった。
そして今現在、午後六時を過ぎた頃。
パーティーも終わり、若松は帰路についていた。
いつもより帰宅時間が早いことと気分が高揚していたこと、今日がクリスマスだから何となくという気まぐれが重なって、少し遠回りをして。
「ふー…」
肌を刺すような寒さも、歩いているうちに薄れていった。
ふと視線を住宅街へ向けると、結構な数の家々がイルミネーションのため光輝いている。
「へぇー…綺麗だな…」
思わず感嘆の声を漏らす。
平地から眺めるのも何だと思い、階段を探しを駆け上る。
一番上まで辿り着き住宅街を見渡すと、煌めく色とりどりのイルミネーションが若松の瞳にしかと映った。
「すげぇ…」
釘付けになる若松の瞳。
感動を胸に、若松は携帯を取り出してその風景をカメラに収めた。
一枚だけでもよかったのだが、どうせならということで違う角度からも撮ろうと方向転換した。
すると。
「…ん?」
目をやった先には人影が。
暗闇で一瞬わからなかったが、凝らしてみるとすぐにそれが誰だかわかった。
「青峰!何やってんだ?」
突然名を呼ばれた青峰は当然だが驚いた。
驚いた顔のままそちらを見やり、名を呼んだのが若松だとわかった青峰は眉間に皺を寄せた。
「何だ…アンタかよ」
「はぁ?何だって何だよ!」
軽く失礼な物言いに今度は若松の眉間に皺が寄る。
そもそも何でこんな所にいるんだとか何をしてたんだとか、青峰に詰め寄りながら問う。
「つーかてめぇ、何でパーティー来なかったんだよ!それくらいは顔出せこのアホ峰!」
「はぁ?パーティー?…んだそれ」
「…は?」
二人同時に首を傾げる。
お互いがお互い、何を云っているのかわからないらしい。
「だから…連絡いっただろ?今日監督が休みになったから、急遽パーティーするって…」
「…知らねーよそんなん。さつきだって何も云ってなかったし」
確かに、今日のパーティーは本当に急なものだった。
しかしメールやら電話やらで連絡することは可能だったはずだ。
もしかしてわざと…とも思ったが、桃井にはそのようなことをしてもメリットになりはしない。
そういえば、と若松は思い出す。
なかなか来ない青峰を呼ぶために携帯を手にする桃井を何度か目にした。
けれど桃井が連絡を入れる前に、他のメンバーは彼女を止めて――…。
「…そういうことかよ」
「あ?」
「いや…何でもねぇ」
若松の脳内で、全てが一致した。
普段から練習不参加のくせに、キセキの世代と呼ばれる半端ない実力を持った暴君。
そんな人間が人に好かれるかと聞かれても、頷くのは難しい。
つまり青峰は、仲間外れにされたのだ。
「………」
相変わらず不機嫌そうな表情である。
だが、その表情にはどことなく寂しさが漂っていた。
「じゃ何でこんな寒い中ほっつき歩いてたんだよ」
「…べつに。アンタには関係ねぇし」
こういうところに可愛げの無さを感じてしまい、若松は小さく溜め息を吐く。
けれどこのまま、青峰を置いて帰る気はしなかった。
「つーか」
若松は青峰の鼻へ手を伸ばし、ぎゅうと摘まんだ。
「いって!っな…!」
じんじんと痛む鼻を押さえながら青峰は少し涙目で若松を睨む。
「てめぇがどこほっつき歩こうと勝手だがよ。体だけは冷やすんじゃねーぞ?」
鼻真っ赤でトナカイみてぇ、と若松は指摘し爆笑していた。
「…何だっつーの。さっきから関係ねぇって云ってんじゃん」
「あのなぁ。確かにてめぇはムカつくけどよ、うちのエースだろうが。風邪なんかひかせられねぇよ」
青峰は若松の言葉に再び驚き、その鋭い目を見開いた。
微かに開いたままの口から声を出そうとしたが、出てこない。
そうしているうちに鼻を押さえていた右手を掴まれた。
「あーぁ、手ぇ冷えすぎだろ。手袋とかねぇの?」
「…ねぇよ」
青峰の手を掴む若松の手は温かかった。
「しゃーねぇ。ほら、これやる」
若松がポケットから取り出したのは、見た目からして温かそうな黒い手袋。
きょとんとしている青峰の胸に若松はそれを押し付ける。
「…いらねぇ」
「そう云うなっつの。いいから早くつけろ」
渋々と手袋を受け取り、右手左手と嵌める。
少し寒さが和らいだ。
「アンタはいいのかよ?」
これでも一応気にかけているらしく、酷くぶっきらぼうに心配の色を見せた。
「これくらいどうってことねぇよ」
得意気に笑う若松。
青峰は手袋を嵌めた両手をコートのポケットに突っ込んで、若松に背を向けた。
「おい、どこに」
「帰るんだよ」
「…じゃ、気をつけて帰れよ。次の練習には来いよな!」
無言で立ち去ろうとする青峰の後ろから若松の声が聞こえる。
数歩足を進めたところで振り返り、その名を呼んだ。
「若松サン」
「あ?」
「―――…」
口を開いたその瞬間に二人の横をバイクが通り過ぎる。
ここは歩行者専用だ、と若松は怒った。
「で、何だ青峰?」
完全にタイミングを見失ってしまい、青峰は口を一文字に結んで再び若松に背を向ける。
「ちょっ、おい!」
「何でもねーよ!」
青峰は一言怒鳴り、走り出した。
若松はつい手を伸ばしたが、特に意味はないだろうと引っ込める。
走り去る背中を見届けた後、冷気ですっかり冷えた手をポケットの中で温めた。
「…アレでもまぁ、たまには可愛いとこもあんだよなー」
若松は一人ほくそ笑み、青峰が呟いた一言を脳内で反芻しながら自宅へと向かった。
End
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青峰を可哀想な子にしてごめんなさい←
主催者様、読んでくださった皆々様有難うございました!