リクエスト
□罪と知っても
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沖田の行動に異変が起き始めたのが
2か月前の事。
どことなくボーっとした顔で眠そうにすることが多くなった。
それで居て頻繁に何処かへ電話をしている風でもあった。
夜中部屋に居ないと思ったら朝方ふらりと帰ってきたり…、仕事は通常通りこなすがなんとなく覇気がない。
食欲も無い様で残したり、食堂で姿を見ない日もあった。
そして、そこから更に一月が経ったころ…
「おい、総悟はどうした」
朝の会議の時間が過ぎた頃。
広間にはすでに隊士たちが揃っていた。
あたりを見回した土方はその中にいつもあるはずの目立つ頭が見当たらない事に気が付いた。
眠そうにしながらも必ず出席している(隊長なのだから当たり前なのだが)沖田の姿が今日は見当たらない。
寝坊か、と土方は溜息をついた。
「まだ寝てるのか?まったくだらしのない奴だな」
近藤も首をかしげ困り顔になった。
「山崎ィ、すぐに起こしてこい!」
機嫌がよろしくない土方のとばっちりを受ける前に「はいよ!」と威勢のいい返事をした山崎は慌てて広間を飛び出した。
青筋を立てた土方のイラついた声に隊士たちもキョロキョロと周りを見渡した。
そしてしばらくして戻ってきたのは山崎だけであった。
困った顔でそろりと広間の襖を開けると遠慮がちに中へと入った。
「おい、総悟はどうした」
「あの…それが、部屋にはいらっしゃらなくて」
布団は敷いてあった。
が、寝た形跡はなかった。
いつから居ないのか…。
何度携帯にかけても電源を切っているのか繋がらず、結局その日沖田が帰ってきたのは夕方も過ぎた頃だった。
すぐに局長室へと呼ばれた沖田は
近藤と土方が座る前にちょこんと座った。
「テメー、今迄どこに行ってやがった」
すごむ土方をまぁまぁ、と落ち付け近藤も困った顔で沖田を見た。
「今日は非番じゃなかったよな?」
「…へィ、」
目も合わせず小さく返事をする沖田に苛々をつのらせる土方。
「何してた?」
「…」
土方の質問には全く答えようとはしない。
「総悟、どこに行ってたんだ?携帯も繋がらないし…皆心配したんだぞ?」
「…すみません、でした」
今度は近藤が落ち着いた声で問い質すと一瞬目を泳がせた後沖田は素直に謝った。
「近藤さんはどこに居たか聞いてんだ!」
「、…云えません」
「俺たちにも言えねェのか?」
「…云えません」
近藤の問いかけに口元を引き締め、土方に返したのと同じ答えを絞り出した。
頑として目を合わせようとしない沖田に痺れを切らした土方は荒々しく立ち上がり沖田の元まで歩み寄るとガバリと胸倉を掴み上げた。
無理矢理立たせるとグッと息を詰まらせる沖田。
かまわずに土方は目線を合わせ鬼のような形相で睨みつけた。
「…何たくらんでやがる」
「ちょ、トシ!!」
慌てて近藤が止めに入る。
それでも目線を落として一向に目を合わせない沖田に土方の怒りを含んだ声が静かに響く。
「テメーに限って、裏切るって事はねぇとは思うが…、今後一切単独行動は許さねぇ。わかったか」
「…」
「分かったかって聞いてんだ!!」
「トシ!」
沖田は下唇を噛み何も答えようとしない。
土方に対しての意地か、それとも頑として云うまいとしているのかは定かではないが…。
大きな声を出しても話しづらくなるだけだぞ、と近藤がやんわりと土方に落ち着くよう促す。
しゃべろうともしない沖田にこれ以上言っても無駄か、と小さく溜息をつき
土方は胸倉を掴んだ手から少し力を抜く。
「…隊長が士気乱すんじゃねぇよ」
そう云うが早いか突き放すように沖田を解放する。
支えが無くなった沖田は一瞬ふらつきそのままドサリと尻もちを付いた。
そして、いまだ俯いたまま
「…大丈夫、ですから」
やっとで聞きとれるくらいの小さな声が聞こえたかと思うと、フラフラと立ちあがり「もう、休みまさァ」と静かに局長室を出て行った。
そして、次の日
沖田は真選組屯所から姿を消した。
部屋には隊服と、中のデータがすべて消去されて空っぽの状態となった携帯電話が残され、
沖田の愛刀だけが沖田自身と共に消えていたのだった。