リクエスト

□水面の花
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今年も桜が満開となったこの季節。
例に漏れず真選組でも花見が行われていた。

日が沈みきらない明るい時間帯から始まり、
今まさに月と桜が綺麗に輝きだす。





昼間出ていた隊士たちも次々と花見に参加し
夜勤のもの以外はほぼ全員が桜の木の下一同に騒ぎ出す。

場所取りで初めから居た山崎は
どんどん出来上がって行く隊士たちに目を配る。

毎回、近所から文句を言われないかヒヤヒヤで
毎年なかなか楽しむことができずに終わって行くのが例だ。





そしてほぼ最初からいる局長の近藤はすでに全裸寸前。
一番隊隊長の沖田はマイ鬼嫁を片手に周りに居る隊士に絡んでいる。

飲み比べする者もいれば、
何を思ったか相撲を取り始める者まで様々だ。








「おい、近藤さん脱がせんなって言っただろーが山崎」


声を掛けられえ振り向くと
やっと仕事を終えたのか土方が咥え煙草で腕を組んで見下ろしていた。


「あ、副長お疲れ様です。」


当たり前のように横にずれ、
土方が座るスペースを開けると
コップを忙々と準備する。


「なんで止めてねぇんだよ」


「無理云わんで下さい、あぁなったら俺には無理です。止められません」


「何諦めてんだ、おい酒」


「はいよ」


コップを渡し酒を注ぐと
一気にグイッと飲み干した。


「ちょっと!大丈夫なんですか!?
副長も飲み過ぎないでくださいよ」


元々あまり酒に強くないのであろう土方は毎回のことだが、
割と一杯目を呑み終わる頃には
すでに顔が赤い。


「大丈夫だ、書類がまだ終わってねぇから様子見たらすぐ屯所に戻る」


言うわりにもう一杯とコップを突き出してくる。
呆れながらも次の酒を注ごうとして、先に横からじゃぼじゃぼと大量に酒が注がれた。
その発生源を見ると既にどんだけ飲んだのか
若干目が座っている沖田の顔があった。


「おい!!バカこぼれたじゃねぇか!」


「なーに帰ろうとしてんでィ土方コノヤロ−」


並々注がれたコップに慌てて口を付ける土方に早速絡み出した。


「だいたいアンタは何処に居ても仕事何をしてても仕事」


「それはテメーが俺の仕事を増やすからだ」


「人の所為にすんじゃねえや!」


そう云うと持っていた鬼嫁をグイグイ
ラッパ飲みし始めた。


「ちょと!!飲み過ぎですよ沖田さん!」


止めようと瓶に手を伸ばした山崎。
その瞬間、瓶から口を離した沖田はものすごい速さで瓶を横に振る。
パリーン!と涼しげな音を立てて
それは山崎の頭にあたり散って行った。


鈍い痛みと共にお星さまが目の前を舞った山崎は後悔する。
こうなった沖田さんから物をとり上げようとするなんて…
俺はなんて馬鹿な事をしたんだ、と。


「おい、なんてことすんだテメェは」


完全に伸びてしまった山崎を
赤くなり始めた呆れ顔で眺める。


「コイツが悪いんですぜ?せっかく人が気持ちよく飲んでんのにとり上げようとすっから」


「お前なァ…」


呆れながらもどこか他人ごとの土方は
ひらひら舞う小さな薄ピンクの花びらを目で追う。
丁度土方の手元、コップの中に一枚花弁が舞い込み水面でゆらりと揺れた。


「なかなか良いもんだな」


小さく呟く。

それが聞こえたのだろう、何がです?と
土方の顔を覗き込む沖田。
その頭にも小さな花弁が乗っている。

手を伸ばし丸っこい頭に触れ、
サラサラと指通りの良い髪を梳く様にゆっくり撫でた。

驚きに目を見開いた沖田の前を
梳かれ落ちた花びらが舞う。


「ぁ、さくら…」


「あんま飲み過ぎんじゃねーぞ」


云うと、
そのままポンポンと頭を緩く叩き
満足したのかよいしょ、と立ちあがった。


「え、何?もう帰んですかィ?」


「だから仕事終わってねぇっつったろ?おい、山崎いつまで寝てんだ」


当たり前の様に云うと足もとに転がっていた山崎を蹴って起きるよう促す。
小さな呻きと共に起きあがると頭を擦りながらキョロキョロする。


「あれ、俺ここで何を…」


「もうちょっと一緒に飲みましょうや」


ねぇ土方さん!と珍しく沖田の方から引き留めにかかる姿を見て
山崎が思い出したように声を上げる。


「つーか、沖田さん!アンタなんて事してくれたんですか!!」

「うるせー山崎。テメーに用はねぇんだよ!」

「いくら酒の席だからってやって良いことと悪いことが」

「あ、土方テメェ!何マジで帰ろうとしてんでさァ!!」

「ちょっと!話聞いてくださいよ」


普通なら死んでますって!と
ギャーギャー騒ぎたて始めた山崎に後を任せ
土方は足早に屯所へと帰ってしまった。
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