猫科悲劇
□猫科悲劇:12
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「総悟、」
「嫌だ。」
「お願い!!少し先っちょ切るだけだから」
「嫌でさァ!」
「トシだって怪我したんだ、な?危ないから」
「あぁ、だからあんなダッサイ絆創膏してたんですねィ」
にやりと笑ってやると当たり前のように本気で突っ掛かってくる土方さん。
これが楽しくてしょうがない。
「ンだとコラ!!だいたいあれは山崎がガキから貰ったヤツで、あの時はアレしかなかったんだよ!」
「すーぐヒトの所為にするんだから。あ〜ぁ、大人げねェなァ土方さんは」
あれから野良猫からやられた傷は何度か動物病院で薬を貰いながらも、
やっとでなんとか治ったところだった。
熱も完全に引き、食欲も元に戻りつつあるところでの出来事。
今回、何をごちゃごちゃいってるのかと云うと、早い話が沖田のあの猫特有の鋭い爪を切るか切らないかでもめているのだ。
「良いだろ!?痛ぇんだよその爪は」
「ダメでさァ、毎日爪磨ぎして手入れもバッチリしてるんですから」
「余計危ないわ!!」
なにを云っても聞かなそうな沖田に、そろそろ強行突破しようかと近藤に持ちかけていた土方は沖田の両脇に手を差し込み軽々と持ち上げた。
近藤はその隙に予め買ってきていたおニューの動物用爪切りを手に持って構えた。
案の定、宙に浮いた状態でバタバタと暴れる沖田は必死そのもので慌てて口を開いた。
「やめなせェよ!!こ、これは刀が持てない今の俺の、唯一の武器なんでさァ!」
「イテぇ!!」
そう云うとまた良いタイミングで土方の手を引っ掻き、弛んだ隙にするりと手から抜けると、
まだぎこちない歩みで逃げるように部屋を出て行った。
その場に居た者はその一言に何も言い返せぬまま、ただ静かに去って行く小さな後姿をじっと見つめていた。
神妙な面持ちの2人は小さくため息をついた。