□逃亡
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いつもの生活に飽き飽きした俺は
刀と財布だけを持って屯所を飛び出した。



ふわふわと雲の浮かぶ空を見上げゆっくりと歩くと思いだすのは姉の事。
楽しかった思い出が頭の中を駆け巡る。
急に懐かしくなり笑みが漏れた。

ふと前を向くと、いつの間にか行きつけの駄菓子屋前まで来ていた。
いつものベンチに座り愛用のアイマスクを装着する。
蝉の声と子供の声、葉が揺れる音や川の流れる音に集中する。
鮮明に蘇ってくる田舎の景色は昔見た時のままで。
(あぁ、懐かしい)
また、ふと笑みがこぼれた。




「おーきた君」



聞きなれた声は最近のモノ。
視界が勝手に開け眩しさに目を細める。

「なーにやってんの?」

いつものやる気のない目で見降ろすのは万事屋の旦那。

「…何してくれんですかィ。せっかく良い夢見てたのに、」

そりゃ悪かったな、と云いながら当たり前の様に旦那は俺の隣に腰かける。

「サボり?」


少し悩む俺。
だって今日は…


「サボり…じゃ、ないですねィ」

そう、今日はサボりじゃない。
なんと云うか…『逃亡』。
なんだか自分でもよく分からないまま屯所を飛び出してきたから。

「そうですねェ、昔の楽しかったことを思い出しながら歩くんでさァ」

「あらら〜、何か嫌なことでもあったの?」

そう聞かれてちょっと困った。
そんなわけではない。
なんと云うか…只そういう気分だっただけ。
今頃屯所では俺と連絡がつかなくて土方さんがキレて探しまわってるところだろう。
だってケータイも(わざと)置いて来てしまったから。

旦那は黙ったままの俺を
横目でチラリと見ただけで。


「ふ〜ん、まぁ良いんじゃないの?たまにはそんなんも。」

どっこいしょ、って。
旦那は無意識の様だけどちょっとおっさんぽくて笑えた。


「まぁ、程々にな。」

そう云われてポンポンと俺の頭を軽く叩いて旦那は去って行った。
(反抗期って思ったのかな?)
けど、そんな旦那の大きな手にも妙に懐かしさを感じて、
その感触と暖かさが頭に残ってしまい
急に帰りたくなった。
たくさんの「家族」と呼べる仲間が待つ場所へ。



ひとつ深呼吸をして立ち上がると
元来た道を辿るように歩きだした。





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