リクエスト

□寧日なし
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最近午後になるとじんわりと暑くなり出した。
この時期くらいから、沖田の部屋の襖と窓は全開で開放的な状態になっている。
そんな緩やかな風が吹き抜ける部屋を後ろに
沖田は縁側でボヤーっと外を眺めていた。

明日は雨といっていたが本当に降るのか?と
快晴の空を見上げて目を細めた。



「あの、沖田隊長」


そこへ急に声を掛けられ
見上げると三人の隊士が横にきっちりと並んでいた。
みな見覚えがある顔だ。
そうそう、と土方から渡された資料に目を落とす。



「今度一番隊に配属されました」


「よろしくお願いします!」


どうやらわざわざ挨拶に来たようだ。
三人声を合わせ挨拶をすると深く頭を下げる。
沖田はというとそのまま縁側に腰かけた状態で頭を下げる隊士たちを見上げる。
よろしくー、と軽く返事を返してまたボヤーっと空を見上げた。


「あ、あのそれだけですか?」


「あぁ?何かあんの?」


「…いえ、失礼します」




「おー…」



あまりにもそっけない沖田の態度に
顔を見合わせ眉を寄せるとそのまま元来た道を引き返して行った。

直後、バシッと云う音と共に後頭部に軽い痛みが走る。


「イテっ、あぁー…俺、将来ハゲ決定でさァ」


「誰がハゲだ!はい、コレ副長から」


後頭部を擦りながら見上げると
そこにはキラリと光るスキンヘッド。


「えぇー、その辺に捨てて貰ってもよかったのに」


「そんなことしたら俺が副長に殺されるっての」

渋々受け取った紙切れは潜伏先が記載された攘夷浪士の情報資料と
一番隊への出動要請書。


「日時や内容は詳しく決まり次第呼ぶってよ」


「さっき一緒に話してくれりゃァよかったのに…」


唇を尖らせ文句を言いながら資料に目を通す。
浪士の潜伏先って云っても今回のは小さいもんだな、
2〜3人連れて行けば片付きそう…と、
頭の中で勝手に構成を始める。
そんな沖田に、思い出したように原田が声を上げる。


「そうそう、それより!」


スキンヘッドの頭がしゃがみ込み
縁側に座る沖田と目線を合わせる様にヤンキー座をした。
鋭い目つきのチンピラ顔の割に
意外と人望を集める男が原田だ。


「さっきの3人、」


「?」


首をかしげる沖田の反応に困ったような顔をする。


「挨拶に来たんじゃねぇの」


「そうだけど、何か?」


「お前さァ、もうちょっと愛想よくとかできねェの?」


「なんでそんなんしなきゃいけねぇんですかィ」


めんどくさそうに顔を歪める沖田に溜息をつく。


「せめて“期待してるぞ”とか、なんか欲しいじゃん?隊長からの一言的なの」


考える様に斜め上を見る沖田の顔が険しい。
明らかに想像できていない証拠だ。


「たとえば、局長を想像してみろ!局長だったらあの場面で云うだろ、労いの言葉とか…。なんか、そんなんあった方が嬉しいと思うんだけど」


「それは近藤さんが言うから良いんであって、俺とはちと違うくないですか?」


確かに沖田の言う通り。
近藤と沖田とではテンションも声のトーンも真逆。
沖田に“期待してるから”なんて言われたら
普通の隊士なら緊張しすぎて動けずに即殉職しそう。

逆に相手を逆なでするような発言になるとも分からない。


「…そうだな。まぁ一番隊の連中もいるし、そのあたりは心配いらねぇか」

独り言のようにサラッというと、
立ち上がりざま沖田の頭を大きな手でグイッと撫でて去っていった。
残された沖田は原田の大きな背中をボーっと見送り
撫でられた頭に手を置き緩く撫でる。




「…てっぺんとかハゲたらヤダなァ」
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