□君に触れたい
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沖田の意識が戻ったのは2日後。


視界が暗くアイマスクをつけているのかと思い、体を動かそうとするが指先が微かに震えただけ。

それだけで耐えられないほどの激痛が全身を駆け巡った。

一気に脂汗が滲み痙攣でも起こしたのかと思う程に体が震え出す。
歯を食い縛り口の中にはジワリと鉄の匂いが広がる。


声も出せずただ苦し紛れに呻いていると人の気配を近くに感じた。



「総悟、目覚めたか」


激痛に震える体をゆっくり起こされ口元にヒンヤリとした感覚が落ちてくる。


「水だ、ゆっくり飲め」


強くしっかりとした、
しかし冷静な声は土方だった。




チビチビと水を飲むと今度は粉がサラサラと口に滑り込む。
そのあとまた水を流し込まれ必死で飲み込んだ。


「痛み止めだ、時期効いてくる」


前髪を払われ冷たいタオルがあてがわれる。
熱が出ているのか、痛みが強過ぎて分からないが仰向けの状態が背中の傷を圧迫して辛過ぎる。



「目は…、やっぱり見えてねぇようだな」



そう呟いた土方に、
やっぱりこれは見えてないのかと落胆した。

真っ暗な視界の中、目を凝らして土方の姿を探すが分からなかった。
何度か瞬きをすると察したように短いため息が落ちた。



「とりあえず、今は寝ろ」


そういって土方は静かに部屋を出て行った。











沖田は絶望していた。
突入して敵一人斬る事なく戦線離脱した自分に、だ。
しかもこんなに深手を負わされて…


情け無さと目が見えない絶望感と激痛にいまにも叫び出しそうだった。
これならまだ死んだ方がマシだったんじゃないかと思う程に絶望していた。

痛みが少しずつ引いていくと共に
今度は強烈な眠気が襲う。

微睡みの中、目の縁に溜まって耐えていた雫がポロポロと転げ落ちて行った。






夢を見た。




見たこともない、ただ一面
緑に光る草原が広がっているだけの世界にたった一人で立っている。




ここはどこだろう…




辺りを見回すが同じ風景が広がっているだけ。
少し歩く事にした。

どこかに行き着くかも知れない。

しかし行けども行けども同じ風景が流れるだけ。
たった一人、この世界でどうしたらいんだろう。



立ち止まり振り返る。
やはり同じ景色が広がるだけの世界。
空を見上げると雲ひとつない青空が見える。

そのままごろりと横になった。
音も無い静かな空に吸い込まれそうになる。
ゆっくり目を閉じると声が聞こえてきた。
それは昔からよく聞いていた優しい声。
懐かしくなり目を開くとそこは真っ暗な世界だった。


慌てて飛び起きた。
青空も草原も消えて自分の体も見えない闇黒の世界だ。

恐怖と焦りがつのる。
このまま闇に溶けて消えてしまうのではないかと思った。
声を上げようにも喉に何かが詰まったように声を出す事が出来ない。
呼吸ばかりが早くなり心臓もうるさいくらいに脈を打った。
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