□君に触れたい
3ページ/4ページ

急浮上するように意識が現実に引き戻された。
痛み止めが切れてきたのだろう。
神経をすり減らすような激痛に襲われた。



「…ぅ、っ!……ぁあ"、ぁ"!」



まともに声が出て来ず
苦し紛れの呻きしか出ない。



(誰かっ、助けて…!)


しかし、すぐ頭に浮かんだのは
今回自分は役立たずだったと言うこと。
それどころか足を引っ張るだけの自分を一体誰が助けにくるのだろう…

こんなの自業自得だ。
油断していた自分が悪い。
隊長失格だ…。

もしかしたら、目が見えなくなった自分はこのまま職を取り上げられて
最悪真選組からも追い出されるかもしれない…



弱った思考回路には嫌な事しか思い浮かばなかった。

声を上げて助けを求める資格など
自分には、もうない…

せめて自力でなんとか痛みを耐えようと呻き声も殺して体に力を入れた。


その時、
ガタガタと音が鳴る程に震えだす体。


異変は自分でもすぐにわかった。
胸の奥から喉にかけて焼かれるような熱が駆け上がる。
一瞬の鉄臭さを感じると肺に水が溢れ出したかのように溺れた時のような…

突然呼吸すら出来なくなった。



酸欠の金魚のように口をパクパクさせているとスラリと襖が開き慌てて側に駆け寄る気配がした。



「総悟!?おい!しっかりしろ!!」



上半身を抱き起こされ、
土方は誰か来てくれ!!と声を張り上げる。
何とか酸素を取り込もうと必死になる沖田を支えたまま額に乗せていたタオルで顔を拭われる。



「どうされました?…っ!沖田さん!?」



「いいから早く医者を呼んでくれ!」



沖田の姿を見て駆け付けた隊士の声が上ずる。
念入りに口元から耳の辺り、首筋までタオルで拭われる。

少し体を起こされた事によって呼吸がしやすくなり急激に咳き込むと
酷く湿った音と共に強烈な血の味が口内に広がった。

またタオルで口元を拭われて、やっと自分が血を吐いている事が分かった。



仰向けに寝ていて寝返りすら自分でできなかった為に自分が吐いた血で溺れていたなんて情け無さ過ぎる。


「すまねぇ、総悟…俺のせいだ」


苦しげに呟く声が聞こえた。
言葉を返してあげたいのに声が出ない。
体も動かす事が出来ない。
腕すら、上げれない。



そんな事ないって言ってやりたい。

全部役に立てなかった俺のせいだ




しかし土方がそんな風に思っていたなんて考えもしなかった。
しくじった自分は切り離されるとばかり思っていた。
傷に触らないようゆっくり抱きしめてくれた腕は微かに震えていた。



「死ぬな、死なないでくれ…頼むから」


かろうじて聞き取れる声で何度も呟かれ、涙の膜が目を覆うのが分かる。
瞬きしたら溢れてしまう。



(アンタに触れたい。顔が、見たい…)



見えない目で土方の姿を探す。
それを察したかのように、
苦しげに呼吸を繰り返す沖田の頬に手を滑らせ落ち着かせるように何度も撫でる。




医者が来て見てもらうと元々刺されて傷ついていた場所から
痛みで力が入った時に出血しただけのようだった。
単純にそれを吐いただけ。

しかし、誤嚥してしまうと命に関わるから気をつけるようにと言われた。



そして、目の方も時期
見えてくるとの事だった。
皆一様に安堵の息をついた。

ただ、傷が深いため用心に越したことはない。


それから沖田の部屋には誰かしらの気配が居座る。
主に土方だ。
たまに近藤と山崎が入れ替わりで世話をしにやってきた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ