最後の物語

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片付けを終えたカカシさんはハンガーにかけていたベストと額当てを手に取りながら

「んじゃ、俺はそろそろ帰ろっかな」

「え…?」

「まだひとりで心の整理したいでしょ?
不安だったらいつでも俺の部屋においで。
夜中でも全然大丈夫だから。…合鍵渡してるのは覚えてるよね?」

「え…ええ」

淡々と帰る準備を進める彼の背を見て私の胸はキュウウッと強く締め付けられるような孤独感と恐怖感に襲われる。

「その鍵使って勝手に入っておいで。
俺が寝てる時にベッドに潜り込んできても全然いいから」

額当てでいつもの左目を隠しながら後頭部できゅっと額当てを結ぶ。

しばらくその位置を調節し、次に持っていたベストを黒い服の上から羽織ろうと広げ

「っいやっ行かないで下さい!」

「っ!」

そんな彼の腰周りに腕を回し後ろからぎゅっと抱きついた。

驚いたようにカカシさんは振り向き

「すず音…?」

「傍にいて下さい。ひとりにしないで下さいっ
…一緒に…寝てください…!」

「っ〜…」

カカシさんは何かに耐えるようにまだマスクを上げていなかったその口は食いしばる。

「ったく…もーっ
ほんっっっっと、可愛い…!」

彼の体がぐるんと振り向き私と向き合う。

しゃがんで私にちゅうっとキスをするとそのまま抱きしめ

「わーかった。一緒に寝よう。
すず音ちゃんは誘い上手ね…」

「カカシさん…カカシさん…大好きです…
行かないで…行かないで…っ」

「うんうん。俺も大好きだよ。
何処にも行かないから…先にお風呂に入っておいで。
その間に明日の準備だけしてくるよ」

「いや、いや…っ行かないで…!
お願いします…ひとりになりたくないんです…!いや…!」

カカシさんに抱きついて頭をふるふると振る。

その頭を優しく撫でながらカカシさんは言う。

「だーいじょーぶ。すぐに終わるから怖がらないで…ね?
戻ってきたらすず音ちゃんが嫌がっても、暑がっても引っ付いて離れないから」

「………っ」

「急に心の喪失感を思い出して怖くなったんでしょ?
しばらくは…唐突に起こっちゃうだろうね…
大丈夫。癒されるまで俺が傍にいる。
一緒に治していこう。心の傷を」

しばらくその場で抱きしめられながら頭を撫でられ続け
そして急に湧き上がった孤独感と恐怖感が収まったのを見て私は彼に促されお風呂に入った。

私がお風呂から上がると彼は言っていた通り準備をすぐに終わらせ既に戻ってきていた。

彼は素早くお風呂を済ませると宣言通り私に抱き着いて離れなかった。

そのまま寝室へと運ばれ一緒のベッドにふたりで沈む。

「おやすみ。すず音…愛してるよ」

「おやすみなさいカカシさん…私も愛しています…」

キスを交わし、カカシさんの腕に包まれ私は眠りにつく。

彼の腕と香り…そして広い胸は私に安心感をもたらし幸福感で包む。

人の死を生まれて初めて目の当たりにしたというのに
私は彼のおかげで穏やかな眠りにつくことが出来たのだった…


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