山守月天子

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「え、ネジさ」

「一口だけ貰おう」

サクの細い手首を掴んだままネジはリンゴ飴を齧った。
齧った場所はまだサクが口をつけていない場所。
狼狽えながらも咄嗟に判断した場所だった。

ネジがサクの腕を離し、ポカンとするサクの前で齧ったリンゴ飴を咀嚼する。
やがてゴクンと飲み込むと未だ呆然とするサクに

「美味いな」

「っ……」

サクの月のように白い頬が僅かに色付いた。
だが、ネジはそれに気付く事はなかった。

「よ…よかった、です…」

ボソボソとサクは小さく呟いてすぐにリンゴ飴を食べ始めた。

それから二人は特に何かを話す事もなく静かに過ごしていた。

互いに存在を感じ、静かな自然の音と遠くにある賑やかな音に耳を傾けのんびりと時を過ごす。

こんな時間をネジは楽しんでいた。





もっと、楽しみたかった。





やがてネジの表情が穏やかなものから固い表情に変わる。

サクがリンゴ飴を食べ終えてその木の棒を焚火に入れる。
木の棒が火によって焼かれそれにより火の勢いが少し強くなった。

その数秒後、ネジが意を決して

「サク」
「ネジさん」

お互いがお互いの名を呼んだのは同時だった。

「…なんだ?」

ネジの方から先に聞く事にしてサクに促した。

サクはそれを聞くと申し訳なさそうに微笑してネジを見ると

「…もう日が暮れて随分経ちました。
そろそろ帰られた方が良いと思います」

「サク…」

「今なら、まだ…何も知らないままでいられます。だから今の内に早く帰って下さい。」

「断る。オレは…オレは知りたくて来たんだ」

「ネジさん…」

サクは悲しげに目を閉じ、何処か観念したような表情で

「頭の切れる方はどうしてこんなにも辛い思いを強いられるのでしょう。
世の中…知らない方が良い事の方が多いというのに…」

「サク…何故…何故、ミソカを殺したんだ」

「それが姉さんの望みだったから。そうお伝えしましたよね」

「姉の望みだと…?違う。誤魔化すなサク!いや…」

「…ネジさん…貴方は…どこまで…」

「ミソカ!お前はミソカだろう!」

確信した目で見つめるネジ。
その目に対し、サクは寂しそうな表情をして見つめ返す。

「ええ…私はミソカです。ネジさん」


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