そらのいろ

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「どうやら、仲良しだと思ってたのはすず音だけじゃなかったみたいネ」

電話の声が聞こえるのだろう。
カカシ先生が微笑ましげにそう言った。

私は思わずその場にへたり込む。

カカシ先生は慌ててそばに寄ってくれた。

「おかあさ…おとうさ…っ
私…私…っもう、そちらには帰りません」

『すず音!?』

『何を言っているんだすず音!』

「大切な人が出来たんです。
ずっと、私を支えてくれた…大切な人が。
私は…その人と一緒に生きたい。
お義母さん、お義父さん。育ててくれたのに何の恩も返せずに本当にごめんなさい…
でも、私…ふたりのこと…っ大好きです…!」

『すず音…』

「自暴自棄なんかではありません。本当なんです。
彼と一緒に生きたい。凄く凄く大切な人なんです。
…だから、どうか許して下さい。
勝手に出て行った上に、勝手にいなくなってしまうことを」

『すず音…本当に、帰ってこないつもりなの…?
それ程までに、その人の事が大切なの?』

「はい。誰よりも、愛してます」

横で聞いていたカカシ先生がぎゅっと私を抱き締めた。

『その人は、貴女を幸せにしてくれるの?』

「当然でしょ」

カカシ先生の声はあちらには届かないようだ。

「『当然だ』って、言ってくれました」

『すず音…』

少しずつ、義両親の強い口調が優しくなっていく。

「それから、私…ピアノは続けます。
ピアノは私が大好きなものです。
お義母さんとお義父さんに届くように…たくさんたくさん練習します」

『無理しなくていいんだ』

「無理なんてしてません」

『貴女のしたい事をしていいの』

「ピアノは私のしたい事です」

一呼吸おいて、私は言う。

「ピアノなんて関係なくても、お義母さんとお義父さんは私を愛してるって…知ってますから」

穴がどんどん縮まっていく。
もう、手の平サイズしかない。

その影響なのか義両親の声が途切れ途切れになってきた。

それ以前に、このスマホの充電は既にカツカツだ。
穴が閉じるよりも先に電池切れを起こす可能性が高い。

『幸せ…なるの…すず音…』

『おま…は…私達の誇り…自慢……娘…』

『私達は…すず音……愛して…』

「私も、お義母さんとお義父さんが…大好きです。
ふたりに引き取られて、私は幸せでした」

『すず音…!』

「さようなら…」

プツッと音が途切れた。

画面を見れば電池切れを示す表示。

閉じられていく穴はほんの数センチしか残っていない。



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