拍手ログ

□NARUTO拍手ログ
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【子カカシと既婚女性】その4


「なぁ…あんた結婚してるんだろ?」

ある日の夜、俺は女の人が作った夕食を食べながら何気なくそう言った。

毎日食べているがいつも不思議に思う。
彼女の作る料理は全て俺好みの味付けだ。
もちろん料理に対して何か一言でも言った事は一度もない。
なのに、どうしてここまで俺好みの味付けが出来ているのだろう。

俺が過剰に意識しすぎてるのか、本当に奇跡のような偶然なのか…

女の人はニコリと微笑んで「はい。そうです」と答えるので

「帰らなくていいのか?旦那が待ってるんだろ?」

それを聞いて女の人は困ったように口を閉じて笑う。

ここ数日一緒に過ごしていて彼女の表情が何を示すのか俺にも分かってきた。

「(ああ…これは聞かれたら困るものなのか)」

おそらくはミナト先生や三代目に口止めされてるんだろう。

「じゃあ…どんな人なんだ?あんたの旦那」

「そうですねぇ」

これはいいのか。

「とても強い忍の方です。
今は前線を離れ後方支援やたまに難しい任務をこなす程度ですが、現役時代は本当に強い忍だったみたいで今でも世界中に名前が知られています」

「………」

そんな忍この木ノ葉にいたか?
ミナト先生のことか?
でも、ミナト先生は既に…

色々と考えるが該当する忍は思い当たらない。

「普段はクールで頭のきれるかっこいい方なのに、本当はとても甘えん坊で寂しがり屋で…少し脆い方なんです。
あ、でも公共の場で堂々と成人向けの本を読むくらいには強いです」

「最悪だろ。そいつ」

「そうですか?」

「ああ。信じられないね」

「あっそれとよく遅刻します」

「やっぱり最悪だ」

思いっきり顔を顰めて非難する俺。

そんな俺を見て女の人は何が可笑しいのかクスクスと笑った。

くそっ結局ただ惚気を聞いただけかよ。

「(しかし…)」

やっぱりそんなふざけた忍思い当たらない。
そんな事してたら嫌でも目立つだろ。
本当に木ノ葉の忍なのか?

もしかすると暗部の忍かもしれない。

ミナト先生にでも聞いてみるか…

「(ルールを遵守しない忍なんてどんなに強くてもクズだ)」

でも、そんなクズをこの人は愛したんだよな…

「ごちそうさまでした。食器片付けますね」

「あ…ああ」

食事を終え女の人は立ち上がると食べ終わった食器を重ねて洗い場へと持っていく。
すぐに俺も食べ終わるとその食器も同じように重ねて洗い場に持っていき、そしてテーブルの上を台拭きで綺麗に拭いた。
それが終わると女の人は綺麗になったテーブルの上に、指にはめている銀の指輪を置く。

彼女は指輪が濡れる事を嫌うらしく、必ず水仕事をする時は指輪を分かりやすいようテーブルの上に置くのだ。

そして台拭きを持って洗い場の前に立ち皿洗いを始める。
移動する際テーブルの足に自分の足をぶつけたようで「いたっ」と呻いていた。何やってんだか。

俺は暇になるので読みかけだった本の続きを読む事にしたが、どんなに文字を目で追っても頭に入ってこない。
その原因は目の端にチラチラと映る銀の指輪。

何の飾り気もないシンプルなデザイン。

何気なくその指輪を手に取り、まじまじと指輪を見つめる。

振り返る。女性は俺に背を向けて洗い物をしている。

俺はもう一度手にある指輪を見ると、自分でも何を思ったのかそれをズボンのポケットに入れたのだ。

何故か。「これさえなければ」と思ってしまった。
そうして気付いたら指輪をポケットに入れていた。

「(…ちょっと困らせるぐらい良いだろ)」

頃合いを見て返そう。
どうせ笑って許してくれる。

指輪が見当たらず慌てる女の人を想像して少し優越感に浸りつつ、俺はテーブルに本を置いて外にあるトイレへと向かった。

用を済ませ部屋に戻ると案の定洗い物を済ませた女の人はオロオロとテーブルの周りを頻りに探し回っている。

「どうしたんだ?」

心の中でニヤニヤしつつ彼女に分かりきった疑問を投げた。

振り返った女性は、予想以上に青ざめた顔をしていた。

「あの、指輪が…」

「指輪?」

「ここに置いたはずなんですが…見当たらなくて」

「テーブルに足をぶつけた時に転がったんだろ。
その辺に落ちてないのか?」

「それが…見当たらなくて…」

「俺も知らないな」

「どうしよう…あれが無くなったら…私、私…っ」

ギョッとした。

次第に彼女の声は涙声になり、みるみるうちに目に涙が溜まっていく。

そんなつもりじゃなかった。

「なっ泣くな!俺も探すから!」

「本当ですか?」

「ああ!だから泣くなよっ」

「ありがとうございます」

目に涙を溜めながらも嬉しそうに笑う女の人に俺は凄まじい罪悪感を感じた。
指輪を探す振りをしながらもどうやって指輪を返そうか、いつ指輪を取り出そうかと頭の中で必死に考える。

やがて思いついたのは『見つけたふりをして返す』ことだった。

チラリと女の人を盗み見るとこちらに背を向けて必死に探している。
探し始めてそこそこ経つし、今なら不自然でもなく気付かれない。

ポケットから指輪を取り出すと今まさに拾い上げた風に持ち直し

「これじゃないのか?」

「え?」

振り返った女の人は慌てて俺に駆け寄る。

「ほら」

手の平に乗った指輪を見ると心底安堵し嬉しそうに笑いながらそっと指輪を手に取り、まるで抱き締めるようにその指輪をぎゅっと胸元で握り締め

「ありがとうございます…!」

これで解決しただろ。
まさか泣き出す程とは思わなかった。
相変わらず指輪は目障りだし気に食わないが今後はなるべく触れないでおこう。

そう勝手に自己解決した時、俺は女の人を甘く見ていた事に気付かされた。

「…どうして、こんな事したんですか?」

「…は?」

驚いて女の人を見ると彼女は確信した目で悲しげに俺を見ている。

「なんの…」

「指輪、カカシさんが持ってたんでしょう?
どうして隠したりしたんですか?」

「っ…」

俺の浅はかな企みなんて最初からバレていた。
下手な言い訳も通じそうにない。
こいつ…のんびりしてて鈍そうなのに意外と鋭い。

ここまで確信した目で見られると下手に誤魔化す方が見苦しい。
せめてその視線からだけでも逃げようと目を逸らし

「……あんたの、困った顔が見たかっただけなんだ。
いつもヘラヘラ笑ってるし、困らせてやろうって…その、ごめん」

それを聞いて女の人はしばらく呆然と俺を見る。
そしてクスッと笑うと

「もう…困った人」

困ったように笑う。
その笑顔にしばらく見とれてしまった。

「謝ってくださった以上これ以上責めるつもりはありません。
…ですが、私の大切な物を隠した罰は受けて頂きます」

「は!?」

「悪い事をしたら罰を受ける。
これがルールや規則、規律というものでしょう?」

「ぐっ」

それを盾に使われると何も言い返せない。
小さく舌打ちをすると

「…で、罰ってなんだよ」

問われ女の人は難しそうに顔をしかめて無言になる。

考えてなかったのかよ。

やがて

「抱き締めの刑です!」

「うわ!?」

勢いよく女の人に抱き締められる。

「はっ離せ!」

「罰ですからダメです」

「くそ…っ」

楽しそうな女の人。
結局俺は彼女に負けたんだ。
なのに、それ程悔しくない。

俺は諦めてため息をつき、しばらくの間大人しく女の人に抱き着かれていた。

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