最後の物語

□26
4ページ/5ページ


「傷心の子を抱くなんて事したくないのよ。
…すず音だって、今はそんな気分になれないでしょ」

「…そうですね……」

アンズちゃんとトウホウ先生を思い、私の胸はズキリと痛む。

「俺は焦ってないし…やっぱ、どうせ肌を重ねるならお互いに身も心も余裕がある時がいいでしょ。
俺とすず音ふたりだけの特別な時間じゃない。
ふたり一緒に幸せを感じ合える時に沈んだ心のままなんて勿体ないよ。
…すず音がいい時にいつでも言ってきなさい」

私の左手を掴み、その薬指にちゅっとキスをする。

そのまま手を引き私を抱きしめるとクイッと上を向かせ落とすようにキスをする。

いつもならこのまま舌を入れ込み熱く絡むような深いキスをするのだが今回は唇を重ねただけ。

口を離すとその薄い唇を優しく微笑ませ彼は言う。

「おかえり、すず音。
俺の元に帰ってくるのをずっと待ってたよ」

「ただいま、カカシさん。
貴方はいつも…私を迎えに来てくれるんですね」

「当然でしょ。
なんてったってすず音ちゃんは元々家出娘だからね。
ちゃーんと家に帰ってくるように迎えに行ってあげないと。
実家になんて帰らせてやーんない」

「心配しなくてももう帰れません」

「やったね。じゃ、ここがすず音の実家だ」

「もー。そんな事分かりきってる癖に」

クスクスと互いに笑い合う。

傷付いた心が、気のせいか少しずつ癒されていくように感じる。

「ところでカカシさん。
素麺湯がきすぎてませんか?」

「………あ、しまった」

すっかり存在を忘れさられてしまっていた素麺。

湯がきすぎて伸びてしまった素麺だったが
きちんと氷水で冷やしてふたりで食べた。

やっぱりまだ食欲が本調子ではなく少し残してしまったけれど、カカシさんが私の分も食べてくれて捨てられる素麺はなかった。

食器の片付けも「どうせ少ないから」とカカシさんがしてくれた。

鏡を見ればいくらか腫れの引いた瞼。

違和感を感じるが擦ってしまっては瞼がまたおかしくなりそうなのでグッと耐える。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ