山守月天子

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ネジくんとたっぷり語り合ったその日夜。私はふと夜中に目が覚めた。
ぼーっと寝ぼけた目でゴロリと布団の上で寝返りをうつと傍らで丸くなりスヤスヤと眠るパックン。
そんなパックンをぼんやり眺めていたふと喉の乾きを覚えた。

「ん………」

目をゴシゴシと擦りながらムクリと起き上がる。
部屋の備え付けにはティーパックとポットがあるが、今はなんだか冷たいお水を飲みたい気分。
冷たいお水なら一階に行けば自販機もあるし冷水機もある。
チラリと時計を見ると夜中の2時。深夜真っ只中だ。
こんな時間にパックンやネジくんを起こすのは気が引ける。どうせ三階のこの部屋から一階の自販機スペースに行くだけなのだから一人でも問題ないだろう。
パックンを起こさないよう静かにもぞもぞと布団から起きて寝間着代わりの浴衣から自分の服に着替える。
髪を軽く整えて、お水購入の為の小銭だけ持つと部屋の鍵をポケットに靴を履いて廊下に出た。

廊下の明かりは薄暗く、足元が見える程度に落されている。
もちろん時間帯もあり人の往来もなくスタッフの姿もない。静かで真っ直ぐな道に私の足音だけが響く。
普通ではなかなか体験出来ない事に少しだけテンションが上がった。
この旅館にエレベーターはないので大きな階段を降りて一階に。
誰もいない受付カウンターを通り過ぎて、閉まっている売店に向かう。
その売店の横に冷水機一台と自販機が二台、そしてカップラーメン等が売られている食品機が置かれてあるスペースがあった。

何を飲もうか色々悩みたい所だが…

「ふあ…」

睡眠が足りず欠伸が出る。
お水を購入したら早く戻って寝直そう。
小銭を入れてお水のボタンを押す。ガシャンと音を立てて落ちてきたペットボトルを手に取るとキャップを外してその場でひと口飲んだ。

「…そう言えば…」

ふと昔の事を思い出す。
義両親に引き取られてからペットボトルのまま何かを飲むなんて事一切しなかった。
それまでは施設でみんなと一緒にジュースやお茶を買ってはペットボトルに口を付けて楽しくゴクゴクと飲み、時には仲良く回し飲みをして飲み比べもしていた。
義両親の所では「それは今までと違って非常識になるから止めなさい」と教えられ、以降ペットボトルの飲み物すら見る機会が無くなった。



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