山守月天子
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「結局元通りになっちゃいましたね」
この世界に来て最初は躾られた癖で直飲みに抵抗があったけど、元々は直飲みで慣れていた為一度するとその後は特に違和感もなく直飲みに戻った。
「やっぱり私は育ちの良いお嬢様は不向きだったんです」
生まれは分からないけれど施設のあった地域は都心から離れた場所にあった。
下町育ちの私が上品な令嬢になれるはずもなかったのだ。
「ふああ…」
二度目の欠伸。
お水も買ってひと口飲んだ事だし部屋に戻ろう。
そう思って自販機スペースから出ると、旅館の入り口の方向から泣き声が聞こえた気がした。
あまりにも小さく、自信がなかったので耳をすませてみるとやはり女の子が泣きじゃくる声が入り口のドアの向こうから聞こえる。
この旅館の玄関のドアは宿泊客の出入りの為と、万が一の火災や災害時に脱出しやすいようにと常に開いている。
ドアを開けて外を確認するとまだ5歳くらいの女の子が「ママぁあ〜!」と泣き叫びながら歩いていた。
そのまま薄暗い裏路地へと姿が消える。
「待って!」
こんな真夜中に放っておけず私は慌てて女の子を追いかけた。
姿が消えた路地裏へと入る為に角を曲がり、ドンッと何かにぶつかる。
つい反射で「すみません!」と謝ってからぶつかった物を確認すると
「………………」
ローブを羽織りフードを被った動物の面。
動物の面は、木ノ葉の暗部の方が付けていた物と種類が似ているような…
「あの…」
いま、女の子がそっちに行きませんでしたか?
そう言葉が続く前にトンッと後ろ首に軽い衝撃。
途端にガクリと足の力が抜けて持っていたペットボトルを落とし地面に倒れる。
私の後ろにも同じ格好の人がいたようだ。
「ぁ……」
意識が 遠のく……
地面に倒れた私を最初に鉢合わせた方が抱き上げたのが、私が最後に見た光景だった。
どのくらい眠っていたのか分からずに意識が戻って、体を起こして辺りを見回すと何処かの山の中にいるかのように木々が覆い茂り木の葉で地面が隠れている。
満月が空に浮かんでいることから、急に意識が無くなってさほど時は経っていない事を察する。
「ここは…」
「目覚めたようだね」
サクサクと木の葉を踏んで此方に歩いて近付いてくる人影。
警戒もあり急いで立ち上がって人影を凝視する。
満月の光で姿を現せたその人物は男性。
フードを深く被っていて丸い眼鏡の奥には蛇のように鋭い目をし、そして…蛇のように生白い肌をしていた。