山守月天子
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ネジが掘った穴に一緒に墓標を立て、決して倒れないようにとサクが墓標を支えてネジが鋤を使って杭を打ち込むように地面に叩き込んでいく。
しっかりと地面に刺さったのを確認してからサクから鋤を受け取ったネジが掘り返していた土を埋めて固めていき、やがて太い木の枝は立派な墓標として立った。
「これ…ネジさんの分です」
「ああ、すまない」
摘んできた花を一旦地面に置いていたサクが花束を持ってネジの元にやって来ると、束をふたつに分けて片方をネジに差し出す。
それをネジが受け取ると墓標の前に添え、次にサクが添える。
そして二人並んで墓標の前に立ち、しばらく無言で目を閉じて黙祷をした。
「…これで…全て終わったな」
「はい。これで…僕がしたかった事、全て終わりました」
目を開けて一緒に墓標を見つめる。
空はすっかり日が暮れて、夜を迎えていた。
サクは近くに置いていた手持ち提灯に火を着ける。
そしてそれを持ち上げるとその場が仄かに照らされる。
サクがその提灯を持ってネジに近付くと
「ネジさん…本当にありがとうございました。
正直僕一人だけで完成させきれるか心配で…墓標にする為の木の枝を準備する所から既に大変だったので」
「そうだろうな。か細い腕でよくここまで運んだものだ」
「山を下りられるのでしたら僕の提灯を差し上げます。
ネジさんはとても良い目をお持ちですから心配はないでしょうが、もう暗いですから念の為…」
「…いや、もう少し此処に居させてくれ」
「え?」
ネジが自分の荷物から何かを取り出す。
それは丁度お祭りが行われている屋台で買ったリンゴ飴だった。
「甘い物は好きか?」
「え…ええ、まぁ…」
「差し入れだ。見た事はあるか?祭りの屋台では定番な食べ物だ」
「いえ…僕は山から出られなくてお祭りはいつも遠くから見ているだけでしたので」
「食べてみると良い。
オレは好んで食べる事はないが、ヒナタ様…オレが仕えている方は『美味しい』とよく仰っていた」
それを聞いてサクがおそるおそる手を伸ばす。
ネジからリンゴ飴を受け取り、困惑したようにリンゴ飴を見つめる。
「…どうした?」
「食べ方が…えっと、分からなくて…」
「かぶりつくんだ。そのまま。
ああ、リンゴを覆っている包装はちゃんと取るんだぞ」
ネジの言われた通りまずはリンゴを覆う包装を取る。
そして小さな口を開き
「もう少し大きく開けないと味が分からないだろう。
リンゴと纏っている飴と一緒に食べると美味しいと聞いたぞ」
「は…はい」