山守月天子

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ミソカの言葉はまだ続く。
悲しげな表情で、潤む青い瞳はまるで海のよう。

「『サク』の体でミソカとして覚醒した私は、『私』を止めようと決意しました。
けれど山守の『サク』でなく月天子でもなんでもないミソカとして目覚めてしまったので戦えない。
だけど結界なら自分の奇跡でもあるから何とか突破出来る。
私は外に助けを求めるしか選択が無かったんです。
…その後は…ネジさんも知っての通りです」

「…………」

「予想外だったのは『ミソカ』が自我を失い狂気に呑まれれば呑まれる程支配の力が強くなる事でした。
私もまた『ミソカ』が支配する『サク』という人形のひとつだった為、支配に抗う事が少しずつ難しくなっていったのです。
結界の外でもずっと頭の中で『ミソカ』の声が響いていました。
最初こそ抗い、聞こえないフリが出来ていましたが…
徐々に徐々に今の自分が『サク』なのか『私』なのか分からなくなっていって…
今だから言えますが、ネジさん達と初めて会った時
もうすっかり自我が『サク』と『私』両方が溶け合って、今の自分がどっちなのか分からなくなっていたのです」

「そう…だったのか…
それで、あの録音の事も答えが曖昧だったんだな…」

「あの録音の当時は『私』でした。
でも、ネジさんが録音を聞かせてくれた時はもう『私』のような『サク』でした。
オドオドして…人見知りで、自分に自信がなくて…サクはそんな性格の子ではありません。
でも『姉さんを助けたい』というサクのような強い気持ちもありました」

「いつからミソカに戻れたんだ」

「…私がネジさんを短剣で突き刺そうとしたあの時より少し前です。
自分を取り戻した直後に意識を乗っ取られて…」

「あの時か…」

「きっと『ミソカ』が感じ取ったのでしょう。
目覚めつつあった『サク』の意識が無くなった事に。『ミソカ』も私ですから…」

「……………」

「最初から我が国の生き残りは私しかいなかったんです。
民が皆死んで王一人だけが生きてるなんて…これ程滑稽な事はありません。
だから…私は…」

「っ…ミソカ…お前…」

遠くから花火が打ち上がる音が聞こえ始める。
木々が鬱蒼とする暗い森の中では花火を見る事は出来ない。
ネジはそんな鳴り響く花火の音を聞きながらミソカを凝視する。

彼女の体が仄かに光りだしていたのだ。



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