わかばいろ

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「チュエ最近顔が明るくなったね」

「え…そ、そうですか?」

「うん。前まではどこか影があったから心配してたんだよ。
やっぱり仙人界に連れてきたのは間違いだったかもしれないと僕も悩んだものさ」

「そんな…師匠は何も悪くないです」

首をふるふると振り、私は頼まれて持ってきた水をお盆から手で取って渡す。
彼は受け取ったお水を一口飲むと

「やっぱり友達が出来た影響が大きいかい?」

「はい。それはあると思います。
菫星はとてもキラキラしてて眩しくて…私もあんな風になれたら」

「なれるよ。チュエならきっと」

フッと笑う師匠。
そんな笑顔は菫星とは違う美しさで、ぽーっと見惚れる。

「(師匠に…振り向いて貰える人に…)」

そこで先日の菫星との話を思い出す。

「あの…師匠」

「ん?」

「公主様も、菫星も言っていましたが仙道の者の恋愛は禁止されていないんですか?」

「特に禁止されていないよ?」

「そうなんですか…
てっきりそういったものは全て禁止されているのかと思ってました」

「仙道であろうと妖怪も人間も皆異性を愛する心がある。
禁止になんてしてたらキリがないな。
…もしかして誰か気になる人でもいるのかい?」

「ひえ!?」

ガラン!とおぼんを思わず落とす。
床に落ちたおぼんはしばらくガランガランと音を立てながら私の足元でクルクル回り

「あ!すみませ…!いませ…じゃなくて…!いません。じゃなくて!!
いま…いま…!今おぼんを……!!」

「(いるのか)う…うん。ゆっくり拾っていいよ?」

何度か呼吸をして心を落ち着かせると私は落ちたおぼんを拾う。

「その様子だと僕は先に越されそうだね。
もし結婚するんだったら僕にも紹介してくれないか?
チュエは可愛い弟子だから気になるんだ」

師匠のその言葉に私は「やっぱり私は異性と見られてないのか」と落ち込む。
でもそれを師匠に気付かれる前に微笑み

「分かりました」

「……チュエ?僕なにか」

「では失礼します」

師匠の言葉を遮り部屋を無理矢理出る。

扉を閉めると深くため息をつき

「(師匠目敏い…っ)」

気付かれる前にって意識するよりも前に気付かれてたなんて。

でも…私の気持ちには気付かない。

「(師匠のバカ。…でも、好き)」

そんな鋭くて鈍い所も好き。



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