わかばいろ
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「師匠、頼まれていた資料お持ちしまし…た!?」
「危ない!」
数冊の本を抱えて敷かれていた絨毯の上を歩いていると靴の先が何も無い所で引っ掛かり私はバランスを崩して前のめりになる。
バサバサと本を全て落とし、なんとかもう片方の足を出して堪えようとするが運悪く足元には落ちた本。
師匠の大切な本を踏むわけにはいかないと私は諦めてそのまま体が倒れるのを待った。
「おっと」
だが、温かい体温に包まれ私の体は支えられる。
「大丈夫かい?」
ハッとして見上げるとそこには師匠が優しく微笑んでいた。
「師匠…」
「足元には気を付けないと」
「あ!すっすみません!」
師匠に抱きしめられていた。
当然師匠が下心からじゃなくて私を助けてくれるためにした行動。
分かっているけど恥ずかしくて、そしてとても嬉しくて。
叶うなら、もう少し長く抱きしめられたままでいたかった。
そんな事叶うわけないから私は早々に師匠から体を離した。
「あの…ありがとうございました。
それとすみません。師匠の大切な本を落としてしまって…
汚れてなければ良いんですが」
慌ててしゃがみバラバラと散らばっている本を集める。
師匠もそんな私の横に並んで一緒に本を集め始めた。
「汚れくらい別に構わないよ。
チュエに怪我がない事の方が大切だからね」
「私は大丈夫です。
危ない所ありがとうございました」
「どういたしまして」
拾い終わりふたり同時に立ち上がると私は自分が拾った分の本を師匠に渡す。
そこで私はふと思いつき
「あの」
「ん?」
「師匠は危ない目にあったことってあるんですか?」
「危ない目に?僕が?」
本を書斎机の上に置くとキョトンとした様子で師匠は振り返って私を見た。
青にも緑にも見える綺麗な瞳。
光によって色が変わる様はまるで昔見た事がある蛍石のよう。
そんな宝石のような瞳が丸くなって私を見ており、なんだか可愛らしく感じる。
「師匠が何ヶ月も前に…とても大きく激しい戦いをしていた事はお話で聞きましたので知っています。
危ない目に何度もあったとは思いますが…」
「そうだね。危ないなんて可愛いもので済めば幸運なくらいだったよ」