わかばいろ

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「はぁ…っはぁ…!」

だるく、重くて熱い体を引き摺って私は森の中を走っていた。
正確な日数は把握出来てないけど私は少なくとも一日以上囚われていた。

逃げないと。
逃げなきゃ。
逃げなければいけない。

師匠が…師匠が殺されてしまう!

「っはぁ!…はぁっ…はぁ…!」

手近な木に手をついて寄りかかり息を整える。
やっぱり体調が優れないまま無理をしても思うようにはいかない。
あの土砂降りの雨の日に私は連れ去られ、雨に濡れて冷えた体のまま肌寒い夜の中に拘束されて放置されていた私は当然風邪をひいた。
看病なんてもちろんして貰えるはずもなく、食事はおろか水すらも与えられていない。
服も濡れたまま着替えなんてあるわけなく風邪の初期症状に劣悪な環境は拍車をかけたのだ。
燃えるように熱い体温に一日以上水を飲んでいない現状は流石に堪えた。
目眩がして、頭がぼうっとして、足元がふらついて、全身が重い。
それでも私はやっと出来た逃げだす隙を無駄にしてはいけない。
何とか逃げないといけないのだ。

「(あの人は私を人質に師匠を殺そうとしている…!
私さえいなければ師匠に迷惑をかけなくて済む…!)」

教主の屋敷に戻るのが一番だとは思うが
自分が今どこの森にいて、屋敷からどのくらい離れているのか把握出来てないからそれはきっと難しい。
だったらこの森を利用してどこかに身を潜める事が今の私に出来る最善の策だろう。
師匠なら哮天犬がいるからきっと私を見つけてくれる。
何処でもいい。何処か…隠れられる場所を…!

フラフラとする足に無理矢理力を入れ、一歩でも敵から離れる為に私はとにかく走った…


















チュエが連れ去られて三日経った。

いつもなら哮天犬で匂いを追わせすぐに見つけられるのだが残念ながらあの大雨で匂いはすべて流されてしまい行方を追えなかった。
せめて近くに行けたら武吉の嗅覚を利用して匂いを辿れるのに…

そんな中、教主の屋敷に一通の手紙が届いた。

それは犯人からの物で内容は『楊戩ひとりで西にある森に来い』とシンプルなもの。
間違いなくチュエを連れ去った犯人だ、と楊戩は思わず手紙を持つ手に力が入りクシャリと紙に皺が入った。



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