わかばいろ

□14
1ページ/6ページ


「チュエ、はいこれ」

そう言って師匠が差し出してきたのは私のソーイングセット。
そういえば!と自分のポケットの中を探るといつも入れっぱなしにしてあるはずのソーイングセットが無かった。

「ありがとうございます。すみません」

「森の中で落としていたんだ。
たまたま哮天犬が見つけてくれて良かったよ。
その後渡すタイミングを逃してしまってて、遅くなってしまったんだけど」

「ごめんね」と謝る師匠にソーイングセットを受け取った私は首を振り

「いいえ。見つけてくれただけでも嬉しいです」

と、ソーイングセットをポケットにしまう。

「じゃあそろそろ行こうか」

「はい」

師匠が哮天犬を出し、私が跨りその後ろに師匠が乗る。

「落ちないようにね」

「はい。…哮天犬重くないんでしょうか?」

「大の男ふたり乗せられるほど哮天犬は力持ちだよ。
チュエの重さくらいなんて事ないさ。ね、哮天犬」

「ばう!」

「ありがとう」

哮天犬の頭を撫でながらお礼を言う。

「準備はいいかい?」

「はい。お願いします」

「よし、行こう」

ふわりと浮いて空を飛ぶ。
向かう先は師匠と約束した神界。

初めて行く未知の領域だ。



















なんとも言葉にし難い空間。

天地の概念がまるで無さそうな空間に島をひとつ浮かべただけ。
でもそのおかげでかろうじて天地が分かる。
島が無ければ三半規管が狂ってしまいそうな感じがする、そんな奇妙な所だ。

仙人界のように豊かな緑や暖かな陽射し、眩しい太陽に青々とした空というものはなく
雲と豊富な水と力強い岩山があるだけ。

一際大きな岩山で哮天犬から降りてしばらく歩くと山頂にロボットのような乗り物に乗ったご老人がいた。

「よく来たのう楊戩。そしてその者がチュエというおまえの弟子かの?」

「はい。元始天尊様」

「え?元始天尊様って元崑崙山の…」

「そうだよ。
今はここで人間界を千里眼で見守る係をしている方だ。
さぁご挨拶を」

「初めまして。チュエと申します!」

両手を揃え頭を下げる。

元始天尊様はふぉっふぉっふぉっと笑うと

「うむ。よろしく頼む。
なるほどのぅ…楊戩が選ぶには珍しい性格の子じゃ」

「僕が選ぶにはってなんですか…」

「おまえもしや弟子としてではなく」

「玉鼎真人様の所へ挨拶に行って参ります」

「わっ」

突然腕を掴まれるとそのまま引きずる勢いで引っ張られた。

そんな私達を診て元始天尊様はふぉっふぉっふぉっと笑いながら見送っていた。



次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ