わかばいろ
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「し…師匠…」
「チュエ…」
がっしりと両手で頬を固定され顔を動かす事が出来ない。
師匠の宝石のような目が私の変哲もない目をじっと見つめてくる。
まるで私の両目に穴が開きそうな程。
深い海のような、広大な空のような色をした綺麗な目。
女性のように長い睫毛に瞬きする度に濡れる瞳。
目をそらしたくない。
ずっと見ていたい。
なのに、私の目を見られるのは恥ずかしくて見つめ合う時間が経てば経つほど羞恥心も積み重なっていく。
師匠の美しい顔も今までで一番近くにある。
額にある赤い宝石がよく観察出来るほどに。
「(師匠…好き)」
もうダメ。
これ以上は…だめ…!
「っ…!」
私は目を逸らした。
「よしっ勝った!」
嬉しそうな師匠の声と同時に私の顔にあった師匠の手が離される。
それと同時に私は俯き、緊張して強ばっていた肩をガクリと落として
「もおお…!こんなの勝てるわけないです…!」
「ただのにらめっこだろう?
変顔はしたくないから見つめ合うだけになったけど」
「(それが敗因なんです師匠のバカバカバカバカバカ!!)」
「じゃあ、この最後のひとつのイチゴは僕が貰うね」
「ど…どうぞ」
師匠に譲るって言ったのに結局こうなっちゃうんだもんなぁ…
口に入れたイチゴを美味しそうに食べる師匠を見ながら、私はとにかく自分の高鳴り止まぬ心臓を大人しくさせようと努める。
私今絶対全身の血色が良い。
「それにしても…随分屋敷の中が賑やかになりましたね」
「騒がしいの間違いじゃないか?」
夜の最上階にある師匠の部屋にいてもはっきり聞こえる悲鳴にドタバタと走り回る音。
これらは全て太乙真人様と哪吒さんのやり取りだ。
太乙様が屋敷に戻られた事で哪吒さんの帰宅場所もこの屋敷に変わり、色々な事情があって隙あらば哪吒さんに狙われる太乙様とのやり取りが屋敷内で繰り広げられることになったのだ。
しばらくドッタンバッタンと音がしていたがやがてシンと静まり返る。
「ま、いつもの展開だな」
と、師匠。
「え?」
お茶を飲む師匠を私はどういう意味だろうと見つめると
「太乙様の宝貝、九竜神火罩で閉じ込められたのさ。
もしくは太乙様が自分で使って避難したか。
太乙様の持つ宝貝は仙人界でも最硬でね。
閉じ込められたり、逃げ込まれたりすると破壊は容易ではないよ」
「へぇ…凄いですね!」
「宝貝オタク兼狂科学者だから彼が作る宝貝はどれも最高の出来だ」
自信家故に他人に対して求めるハードルが高い師匠がこんなに絶賛するなんて。
きっとそれほど太乙様の作る宝貝が凄いんだろうな。