わかばいろ

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「変化の達人の僕でも、なれないモノはあるんだよ」

「……師匠は、誰かのようになりたい。とか
誰かの力を羨んだりとか。
そんな経験ってあるんですか?
師匠は何でもできるし、誰にでも何にでもなれるから
きっとそんな風に思った事ってないんだろうなって思ってました」

「そんな事ない。僕にだって誰かを羨んだりする事はあるよ」

「え…」

「今なら…そうだね。太公望師叔のようになりたいと思っている。
太公望師叔のような頭脳があれば、太公望師叔のような考え方が出来るようになれば。…てね。
どんなに師叔の姿を真似て、能力すらも真似てもその思考は師叔本人にしか出来ない。
師叔の姿や演技を最高レベルにまで真似ても、僕の考え方や作戦は彼とは違う。
彼の考え方も作戦も僕の中に無いものだ。彼になる事は出来ない。
だからこそ、太公望師叔を羨むんだよ」

「なれないなら…諦めるんですか?
誰かのようになれないなら、誰かのようになりたいと思うのは無意味なんですか?」

「なれないなら諦めるしかない。
でも、思う心は無意味ではない。
なれないならその人により近くなろうと努力する目標が出来る。
その人を見て、研究して、観察して
学んだ事はきっと何らかの場面で自分に役立つ時が来る。
そうして経験を積み重ねて、やがて自分のやりたい事や考えた事に今まで観察してきた人の方法を混ぜるという応用も出来るようになる。
それが、自分のやり方へと進化していくんだよ」

「…………」

「チュエ、キミはまだ10代と若い。
僕の言っている事が理解出来ないかもしれない。
僕も昔はそうだったからね。
思うようにいかなくて苦しい時が最も多い年頃だろう。
諦めたくなくて奮闘してそれが逆に辛くて…泣きたい時もあると思う。
僕はね、どうせなれないんだから諦めろって言いたいんじゃない。
頑張って頑張って…自分が満足するまで、納得するまで目標とする人を追いかけるといい。
だけどたまには休む事も大切だよ。
チュエが真面目で頑張り屋なのはよく知ってる。
だから今の内に休む事も覚えるんだ。
そうすれば、もっと長い期間頑張る事が出来るからね」

そして師匠は本を置いて立ち上がり、私が座っているソファーに来ると私の横に座った。



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