わかばいろ
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こんなに何かを祈ったり、恨んだり、疑ったりしたことはない。
師匠の部屋にお茶を持ってきて、書斎机にお茶を置く私に深刻そうな顔をして「話があるんだ」と言ってきた時は何かあったのだとは分かっていた。
けれど…
こんなの、予想なんて出来ない。
「うそ…ですよね…?」
「…………」
「菫星が……そんな…」
「…………」
「土人形なんて…そんな…っそんな…!」
「…………」
無言のまま否定しない師匠に私は持っていたおぼんを床に落として師匠にすがりついて見上げる。
「師匠!師匠!!
うそですよね!なんで…どうして!
そんなはずない!菫星が…そんなはずないです!
だって菫星は…菫星は全然普通じゃないですか……!!」
「…………」
「うそだって言って下さい…!
違うって…っ冗談だって言って下さい……!!
お願いします師匠…!お願いします…!お願い……っお願い……っ!!」
縋って、師匠の胸に顔を埋める。
なんで師匠は何も言ってくれないの?
どうして師匠は何も言ってくれないの?
お願いだから何か言って!
ただ一言
「うそだよ」って言って!
縋る私に師匠はやっと口を開くと。
「……事実だよ。チュエ」
願った言葉とまったく正反対の言葉を言われ、私はズルズルと力なくその場に座り込んだ。
「もう菫星くんは人間じゃない」
「…………」
「まだ原因は分かっていないけど
足が動かなくなったのも、耳が少しずつ聞こえづらくなっているのも
今まで見てきた土人形達のようになる前触れじゃないかと予想している」
「…………」
「もうこれは誤魔化せられるようなものじゃない。
受け入れて、これからどうすれば発狂を逃れられるのか調べていくしかないんだ。
幸い…彼女にはまだ自我がある」
「…………」
「…チュエ」
座り込んで項垂れる私にしゃがみ師匠は両肩に手を置く。
「諦めちゃダメだ。
確かに今の彼女は人間じゃない。
けれど、まだ魂魄は飛んでないじゃないか。
つまり人間の肉体を持つ菫星くんがどこかにいるという事だ。
発狂する前にその体を見つけだせばいい。
発狂も、もしかしたら雲中子様が回避方法を見つけだせるかもしれない」
「…………」
「キミは友人として彼女を元気づけてくれ。
まだ諦めるには早いと…まだ、キミは生きてると」