わかばいろ

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「師匠…本当にこの先に菫星の師匠がいるんですか?」

「ああ。まえ、菫星くんに教えてもらった事があるだろう?
あれから何度か訪れてはみたんだが未だに会えたことはなくてね」

「確か広い野原でしたよね。
なのに結構深そうな林が目の前にあるのですが…」

森と錯覚しそうな程の深い林。
まるで来る者を拒むかのように暗くおどろおどろしい雰囲気に
私は思わず師匠の背に隠れるように後ずさった。

私もここに来た事があるはずなのだが記憶が消されてしまっている。

「その…会えたことがない…と、言うのは?」

「この林が迷宮みたいになってるんだ。
何度試してもその度に道が変わって迷い、入口に戻される。
上空から林を抜けようにも結界が貼られて飛ぶことも出来ない」

「そんな厳重に…
菫星の話だと決して人嫌いではないみたいなのですが」

「うーーーーーん。
これだけの事をしていてその話をされても信じられないなぁ…」

「ですよねぇ…」

「とりあえず行くだけ行ってみよう。
今回は菫星くんの友人であるチュエがいるから
幾らか状況が変わるのを期待してるけど…」

あまり変わらない気もするから
期待するだけ無駄かもしれないなぁ。と、苦い顔をしながら林へと足を踏み入れた。

「僕から離れないように」

「はい。師匠」

「なんなら手でも繋ぐかい?」

「いえ!そんな!」

差し出された手に驚き恥ずかしさもあって
私は思いっきり顔をブンブン振った。

「そこまで拒否されると流石に傷付くなぁ」

「え!?すみません!そんなつもりは…!」

「ははは。冗談だよ」

実に楽しそうに笑う師匠を見てまたからかわれたのだと気付く。
「もう…!」とは思うが怒るどころか逆に嬉しく思うので
私って実はMっ気があるのかもしれない。
師匠にそんな事知られたくないから永遠に秘密にしておこう…!
ひとりでそんな風に考えつつ師匠の後ろについて行く。

林の中は頭上に鬱蒼とする木の葉のせいで夜のように暗い。
今は春の季節で時間は昼。
梅雨でもないのにジメジメとした湿気があり
吹く風もどこか湿っぽく生温い。
鳥の声も無く、動物の気配もしない。
そんな明らかに異様な場所で、一人で来ていたら不安になる事間違いなし。
既に怖くて無意識に師匠の背に垂れ下がっている外套を握っていた。



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