わかばいろ

□27
2ページ/6ページ


「死にたくない…っ!」

自分勝手だって分かってる。

今更都合が良すぎるって分かってる。

それでも

「死にたくない…死にたくないよぉ…!
あんな死に方したくない…!
今思い出しても胸が苦しくなる…っ」

菫星を含め今まで見てきた土人形の人達の最期。
みんな揃って苦しそうに…辛そうに、顔を歪め喘いでいた。

自分が願ったもの。
自分が望んだもの。
そんな想いすらも忘れてしまい、最期はただ自分が分からないまま発狂して無差別に誰かを傷付ける。

きっと菫星はそんな事になる前に自分を殺す事で誰かを傷付ける事を防いだんだ…!

「私も…いつかああなっちゃうのかな…
このままいけば、師匠やみんなを傷つけちゃうのかな」

嫌だ。そんなの。

「私が何処かに消えてしまえばいい」

師匠から離れるの?

大好きな、大好きな…愛してる人から離れるの?

「(離れたくなんかない)」

でも…大好きだから傷付けたくない。

師匠を愛してる。

この気持ちだけは忘れたくない。

「屋敷から出よう」

勝手にいなくなってもきっと哮天犬で匂いを追われてすぐ見つかってしまうだろう。
雨でも降ればいいけど今日はおそらく夜までずっと晴天だろう。
いつ降るか分からない雨を待つより、師匠に弟子を辞める事を申し出ればいい。

そうすれば仙人界にいられなくなる。
誰も傷付けずに済む。
人間界に下りたらとにかく人気のない所を目指そう。

お願いだから。誰も私のせいで傷付かないで。














神界から楊戩が帰って来た時、既に日が傾いた夕方だった。

「帰ったか楊戩。それで…どうだった?」

執務室に直接帰ってきた楊戩を出迎えたのは張奎だった。
張奎は任されていた書類を丁度楊戩の書斎机に置いていた所だったようだ。

楊戩は哮天犬から降りるといつものようにしまい、そして張奎と向き合う。

「お疲れ様張奎くん。
うん。やっぱり菫星くんとの会話は無理だったよ。
それどころかこれまでの魂魄よりも状態が悪化している」

「これまでの魂魄よりも!?
今までも十分酷い状態だったのに更に悪化するのか!?」

「そのようだね。
もうこのままにしておけない。
菫星くんの証言もあったし、この度の事件の犯人と断定していいだろう。
明日菫星くんの師がいるであろう場所に行く」



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ