わかばいろ

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「よし。ここまでにしよう」

体調もすっかり元通りになり、師匠の提案でもあったのでリハビリとして手合わせをする事になった。

多分リハビリは口実。
私が相手で師匠のリハビリになるはずがない。
きっと師匠は確かめたいのだ。
生身に戻った私が果たして戦えるのか。

そして結果は

「(全然動けなかった…)」

戦闘力は以前の私に戻っていた。

イメージは出来る。
参考にしていた菫星の動きを想像する事は出来るのだが
それを再現出来ていたはずが、まったく出来なくなったのだ。
師匠を驚かせたあの私や、哪吒さん達が認めてくれたあの強さは、やっぱり偽物。
戦いの才能がまったくない元の私に戻ってしまっていた。

「ありがとうございました」

頭を下げる私。
そして頭を上げ

「これが…現実なんですね」

「チュエ…」

「いいんです。前の私なら落ち込んで、ウジウジして、どうにかして戦えるようにならないかって…きっと無茶ばかりしていたと思います。
でも、今は戦えない自分を受け止められます。
そう心の余裕が出来ましたし…何より、師匠が戦えないままの私が好きって言ってくれましたから」

心配して見下ろしてくる師匠を安心させたくてにっこりと笑い

「今の自分の事、ちょっとだけ好きになりそうです。
弱い自分を受け入れられたって自信もつきました。
だから…私はもう大丈夫です」

それを聞いて師匠は微笑んだ。

「戦えるだけが強さじゃない。
いつか話したこの言葉…今のチュエなら理解出来るね?」

「はい。師匠。
戦えない分、沢山の知識を教えて下さい」

「もちろんだよ。チュエならきっと沢山の人を癒せるこの仙人界で必要不可欠な仙女になれるよ」

「頑張ります…!」

私の大好きな師匠の手が伸びて優しく頭を撫でてくれた。
気持ち良くて、安心出来て、味わうように目を閉じてその感触を堪能する。

「さて…少し休憩したら出掛けようか」

「あ、木刀は私が片付けておきます」

「そうかい?じゃあ頼むね」

師匠から木刀を受け取り、戦闘修練場を後にする師匠を見送る。
師匠の姿が見えなくなった所で私は深くため息をつくと

「あーあ。師匠の為に戦える、かっこいい女の子になりたかったなぁ…」

人には必ず願っても手に入らないモノがある。
どうしても手に入れるには、もう何かを犠牲にして別人になるしか方法がないんだ。
でもそれで満足出来るのは自分だけ。
それも、一時的な欲求で。
今の自分を大切に想ってくれる人達、好きでいてくれる人達の気持ちを全て無視した上で手に入れるモノ。
それでも構わないと無理矢理手に入れたその先に待っていたのは
大好きで、大切な人の心に一生癒えない傷を残してしまうという結末だった。
もう、そんな事になりたくない。
だから私は今の自分を受け入れ、大切する。

だけど…

「やっぱり…悔しいなぁ」

理想の自分にはなれなかった。

その事がちょっとだけ悔しくて、私は木刀を抱き締め立ち尽くし、泣いた。



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