師弟生活

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「大変よ!チュエさんが隣の村の村長に連れて行かれてしまったの!」

日が落ちた頃にふたりは村に帰り着いた。

大きな成果を伝え、もう隣の村の村長に怯える必要はないと早く姉を安心させたい思いで家に向かっていた。
しかし家の前に立っていたのは顔を青ざめた自分の婚約者。
彼女はふたりを見つけると駆け寄り冒頭の台詞を叫んだのだ。

「なんだって!?姉さんが!?」

「村長の付き人がやって来て…仙人様宛に伝言をお願いしますって言われたの。
『お弟子様は我が家におりますのでご安心下さい』って」

「そんな…どうやって僕と姉さんの家を!?
あの村長には僕の家は村長の家だと言っている。
だから姉さんがいる家の事は知らなかったのに!」

「それが…」

言いにくそうに楊戩をチラリと見る。
楊戩はその視線に気付くと

「僕に構わず話して下さい。
今は誰かに気を遣うような時じゃありません」

「は…はい。
その…そちらの綺麗な仙人様の噂を聞いてやって来たみたいで」

「………僕、の?」

意外な言葉に驚く。

「村娘達が特に騒いでいたし…だから家が特定されてしまったようで。
付き人の話を聞くと最初はチュエさん目的じゃなく、仙人様とお話がしたくて来たみたいなの。
それで付き人が訪ねたら出てきたのがチュエさんで…」

「バレてしまった。ってことか…
くそっまさか付き人を連れてくるなんて思わなかった!
いつもはひとりでやって来るくせに!」

「ボヤいても仕方ない。
今すぐ行こう!僕に原因があるみたいだし…」

「そんな!楊戩様は何も悪くありません!」

「とりあえずこの村に馬は?
走るより馬の方が速い。朝歌で借りた馬は置いてきてしまったからね」

「村長用に一頭います!」

「きみはそれに乗るんだ。
それから、武王のサインがある契約書もきちんと持ってくるんだ。途中で落とさないように」

「え?」

「これを機に『支援は必要ない。二度とうちの村に手出しするな』と言いに行くんだよ。
大丈夫。きみはそう強く言える力がその手にあるだろう?」

楊戩の力強い微笑みに、手元にある契約書の入った筒を大事に握り

「………はい!」

「さあ行こう!」

楊戩はそう言って哮天犬を出す。

「馬を借りるよ。ついでに送る」

と、彼は自分の婚約者の手を握って走る。

「私はどうしたら…?」

「きみは自分の家にいるんだ。明日の朝来て説明する。
大丈夫だよ。必ず姉さんを連れ戻して全てを終わらせて全てを解決してくる。
素晴らしいお土産があるんだ。楽しみに眠ってくれ」

安心させるよう婚約者に優しくキスをし、見つけた村長用の馬に飛び乗る。

「契約書は辿り着くまで僕が預かる。急ぐよ!」

哮天犬に乗った楊戩が契約書の筒を受け取り哮天犬を走らせる。
彼はその後を追うように続いた。



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