師弟生活

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「弟子の修行は捗っているか?」

「はい父上。とても素直で良い子で…努力家です。
僕の自慢の弟子ですよ」

「そうか。是非会ってみたいものだ」

「今度お連れします。
…そういえば先日その弟子の弟の結婚式に参加させてもらったんです。
何度見ても結婚式というのは気持ちを微笑ましくさせてくれるものですね」

先日よりもスムーズに会話が出来るようになったと楊戩は内心喜んでいた。
まだ通天教主の元へ行くのに躊躇し、師に背を押してもらうという状況だが会話は幾分か慣れてきた。

「そうだな。…お前にはいないのか?」

「え?」

「共に生きたいと思う女性は」

「………」

「…私にはいた。それがお前の母だ」

「…!」

自分の母親に関して楊戩は何も知らない。
けれど、通天教主のその一言で通天教主もまた女性を愛した事のある人なのだと理解した。

「…実は…」

「………」

「僕は、自分の弟子を愛しています」

「…そうか」

「人間の女の子です。
僕が妖怪だと知ってもそれを受け入れ、美しいと微笑んでくれたんです。
僕は…もう彼女しかない。と、妻にしたいとも願っています。
しかし僕と彼女は師弟という関係で、弟子と教主という身分もあります。
彼女の想い人は僕だととあるきっかけで知ったのですが、彼女はその身分のせいで僕への想いを押し込めているんです。
高い身分の人に恋する事は罪だと…
父上、僕は人を愛するのに身分は関係ないと思っています。
そんな僕の考えては…間違っているでしょうか?」

楊戩は自分の父親の顔を真っ直ぐ見て意見を求める。
通天教主はそんな楊戩の視線に気付くと自分も楊戩向き合い目を合わせた。

「間違ってはおらん」

「父上…」

「だが、身分と立場は別だ。
お前は仙人界の教主。
教主である以上…跡継ぎという問題がある。
跡継ぎを残すのは教主であるお前の仕事であり、教主という立場にいる者と共に生きる覚悟を決めた者の使命。
どんなに愛し合っていてもふたりの間に子が出来なければ夫婦とはなれない」

「………」

「楊戩。お前がどんなにその女性を愛していても子が出来なければその者を妻にする事は出来ないのだ。
子が出来なくても、なんとしてもその女性を妻にしたいと願うならお前は教主という立場を捨てなければならない。
厳しいが…何かの上に立ち、何かを作り守る立場にあるという事はそういう事だ」

「………」

「その覚悟がお前とその女性にあるのか?」

「僕…は…」



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